千葉大学は8月27日、fMRIを用いてうつ病および「社交不安症」の脳機能を局所レベルとネットワークレベルの双方において比較することにより、両疾患の脳機能の共通点と相違点を明らかにしたことを発表した。
同成果は、千葉大 子どものこころの発達教育研究センターのJunbing He特任研究員、同・平野好幸教授、同・清水栄司教授らの研究チームによるもの。詳細は、メンタルヘルスに関する全般を扱う学術誌「Journal of Affective Disorders」に掲載された。
うつ病も社交不安症もどちらも精神疾患であり、前者は持続的な気分の落ち込みと興味・喜びの消失を特徴とし、後者は社交的な状況に対する持続的な恐怖・不安を特徴としている。両疾患の併存率は15~74.5%と高く、感情調節や社会的機能の障害、注意の偏りなど、共通する症状も数多く確認されていた。また、抗うつ薬や認知行動療法などの同一の治療戦略に反応することから、うつ病と社交不安症は類似した病因と病態生理を持つ可能性が示唆されているという。
両疾患共にQOLを大きく損なうだけでなく自殺のリスクを高めるため、正確な診断と速やかな治療介入が不可欠。両疾患に対し、より適切な診断や治療を行っていくためには、両疾患の脳機能にどのような共通点や相違点があるのか、健常者と比べて脳のどのような機能に異常が生じてしまっているのかを解明する必要があるが、それらはまだ十分にわかっていないとする。
近年、fMRIを用いて、局所的な脳活動の指標である「低周波変動振幅」や脳の領域間(ネットワーク)の機能的な関係性の強さの指標である「機能的結合性」を測定することで、安静時の脳の機能にどのような異常が生じているかを調べ、精神疾患のメカニズム解明を試みる研究が多く行われているという。そこで研究チームは今回、低周波変動振幅と機能的結合性の両指標を組み合わせることで、局所レベルとネットワークレベルから両疾患において生じている脳機能変化を総合的に探索し、両疾患の共通点や相違点、健常者との違いを解明することにしたとする。
今回の研究では、選択基準を満たす健常者82名、うつ病患者48名、社交不安症患者41名が参加して実験が行われた。全参加者に対して「リーボヴィッツ社交不安尺度」および「BDI-IIベック抑うつ質問票」などの心理尺度を使用して重症度の評価が行われ、そして安静状態でfMRIの撮影が行われた。
まず低周波変動振幅の群間比較により、3群のその値は「右中心後回」、「左後頭極」、「右上前頭回」に有意差があることが確認された。右中心後回および左後頭極において、健常者と比較してうつ病患者と社交不安症患者の低周波変動振幅は減少していたが、両疾患の低周波変動振幅には有意差が発見されなかったという。また、右上前頭回において、社交不安症患者および健常者と比較してうつ病患者の低周波変動振幅は増加していたとする。
次に、上述の群間比較で得られた低周波変動振幅に有意差がある3つの脳領域が、「seed-to-voxel/seed-to-ROI脳機能的結合解析」のシード領域(脳機能的結合を解析する際に基準として用いる特定の脳領域やボクセル(三次元のピクセル)のこと)として使用された。シード領域からの信号と、脳全体の各ボクセルまたは特定の領域との相関を調べることで、シード領域がどの領域と機能的に結びついているかを特定することが可能。その結果、3群間では、右中心後回内、右中心後回と「小脳虫部第3小葉」の間、右中心後回と「左視床」の間の機能的結合性、また、左後頭極と「右中側頭回側頭後頭部」の間の機能的結合性、さらに、右上前頭回と「右縁上回後部」の間の機能的結合性に有意差が示されたとした。
これらの脳領域は、身体感覚、視覚処理、認知機能および感情調節などの機能に関連しているため、両疾患の共通的な脳機能異常は、うつ病患者と社交不安症患者における感情障害と認知障害などの類似性を説明するものと考えられるという。また、右上前頭回において、うつ病患者では健常者と社交不安症患者の両方よりも低周波変動振幅が高いことが示された。この異なる脳機能異常は、うつ病患者と社交不安症患者の臨床症状の違いを説明し、両疾患を区別する特徴になる可能性があるとしている。
今回の研究は、低周波変動振幅と機能的結合性を組み合わせて、局所的なレベルとネットワークレベルで健常者、うつ病患者および社交不安症患者3群の脳機能の違いが検討された。その結果、うつ病患者と社交不安症患者で共通する脳機能異常と異なる脳機能異常があることが示された。今回の研究成果は、両疾患の神経メカニズムの解明、診断バイオマーカーおよび新しい治療戦略の開発の一助となることが期待されるとしている。