宮崎大学は8月22日、これまで高い熱電性能指数ZTを有する熱電変換材料として開発されてきたものはp型材料が大半であり、ペアとなる高性能n型材料の開発が急務とされていたが、n型「(Cu1-xAgx)2ZnSnS4」(CAZTS)単結晶の開発に成功したと発表した。

同成果は、宮崎大 工学部 電気電子工学プログラム(GX研究センター兼任)の永岡章准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

エンジンやガスコンロなど、生活のさまざまな場面で熱が有効利用されずに捨てられており、日本中で発生している年間の廃熱量は原子力発電所数十基分の発電量に相当すると試算されている。そうした無駄に捨てられている熱を電気に変換できるのが熱電変換技術。これまでの熱電材料としては、テルル化鉛(PbTe)やテルル化ビスマス(Bi2Te3)が知られているが、有毒元素の鉛やレアメタルのテルルやビスマスを含んでいることが課題だったという。

さらに実用化するための指標として、1以上のZTが求められているが、達成できている材料は限られていたとする。エネルギー変換効率において太陽電池と熱電発電を比較してみると、太陽電池が10~15%であるのに対し、熱電発電では5~10%であり、変換効率の低さも普及させるための課題となっていた。

  • 基本的な熱電発電デバイスの構造

    基本的な熱電発電デバイスの構造(出所:宮崎大プレスリリースPDF)

基本的な熱電発電デバイスは、柱状に切り出されたp型とn型の熱電材料の両端を金属電極と接続するパイ型構造を基本としている。そして、それらを直列に接続することで、大出力の熱電発電デバイスとなる。材料ごとにそれぞれ異なったZTの温度依存性、熱膨張率、融点といった特性を有するため、熱電デバイスに高い変換効率や長期安定性を望むには、熱電特性や安定温度の近いp型材料とn型材料を用いる必要があるという。ところが、現在1以上の高いZTを達成している材料はほとんどがp型材料であり、それらと釣り合える高い性能を有する高n型材料がない状況だった。それに加え、大半の材料はpn伝導制御が困難であることも課題だったという。もし伝導型が制御できる材料を開発できれば、デバイス化に向けて大きなアドバンテージを有するとする。

そこで研究チームは今回、地殻中に豊富に存在し、毒性の低い元素(銅、亜鉛、スズ、硫黄)で構成された環境調和型「Cu2ZnSnS4」(CZTS)に注目することにしたとする。

CZTSは、永岡准教授が同大学の大学院生時代から研究を続けてきた材料であり、その大学院生時代に大型で高品質なCZTS単結晶成長にも成功している。構成元素組成などをチューニングすることで、環境調和したp型硫化物熱電材料において高い性能指数となるZT=1.6が達成されていた。

CZTSにおいてアクセプター欠陥は、ドナー欠陥よりも形成されやすいため、p型伝導のみが示されるという。そのため、組成制御および不純物ドーピング技術を用いた伝導型制御は難しく、信頼性のあるn型CZTSは報告されていなかったとする。

  • CAZTS単結晶インゴットと熱電変換効率測定の様子

    CAZTS単結晶インゴットと熱電変換効率測定の様子(出所:宮崎大プレスリリースPDF)

CZTSのn型化のために理論計算からアプローチが行われ、銅を同じI族元素である銀で置換することで、アクセプター欠陥が抑制され、効率よくドナー欠陥を形成することが明らかにされた。結果として、CZTSにAgを混晶させた「(Cu1-xAgx)2ZnSnS4」(CAZTS)単結晶において、x>0.4の組成でn型化に成功し、最適な組成制御を行うことで、最終的にn型硫化物熱電材料において高い値となるZT=1.1が達成された。さらに、n型CAZTS単結晶において、熱電変換効率3.4%が示され、数百度の温度差でミリワットの電力を出力することに成功したという。

研究チームは現在、今回の成果も活用し、長期安定性・高効率な環境調和した熱電デバイスの開発を進めているとする。さらなる研究開発により、従来の特性を凌駕する高性能熱電デバイスを創出することができれば、熱電変換が汎用的なエネルギー源として普及していくことが期待されるとしている。