東京工業大学(東工大)と静岡大学は8月21日、超低電圧で発光する青色有機ELにおいて、適切な材料の組み合わせを用いることで、エネルギー損失のない高効率な電子移動が可能となることを実証したと共同で発表した。

同成果は、東工大 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の伊澤誠一郎准教授、静岡大 工学部 化学バイオ工学科の藤本圭佑准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

有機ELにおいて、青・緑・赤の光の三原色のうち、最も高いエネルギーを有する青色有機EL素子では、駆動電圧が3V以上と高いことや、長期動作安定性が低いという課題を抱えている。そこで開発されたのが、2種類の有機分子の界面における、エネルギーの低い励起状態から高い励起状態を作り出す過程を利用した「アップコンバージョン有機EL」(UC-OLED)。これにより、従来の半分以下の1.5V以下の駆動電圧で高効率な青色発光を得られるようになった。

  • UC-OLEDの発光メカニズム

    UC-OLEDの発光メカニズム(出所:共同プレスリリースPDF)

しかし、UC-OLEDの社会実装に向けてはさらなる高効率化が急務であり、そのためには素子内部での電子移動の詳細な解析と材料選択指針が求められているほか、UC-OLEDにおいて、中心的な役割を担う電荷移動状態は、光アップコンバージョンや有機太陽電池においても重要な中間体となるため、電荷移動状態ダイナミクスの理解はこれらの有機光デバイスの包括的な理解にもつながるとして重要視されている。そこで研究チームは今回、UC-OLEDの系において45通りの材料の組み合わせを用いて、電荷移動状態からドナー分子の「三重項励起状態」への電荷移動→三重項励起状態電子移動反応を系統的に解析することにしたという。

  • 今回の研究で用いられた材料の化学構造とエネルギー準位

    今回の研究で用いられた材料の化学構造とエネルギー準位(出所:共同プレスリリースPDF)

一般的な有機分子では、三重項励起状態に移動した電子は無輻射的に失活してしまうため、エネルギーや効率などの情報を取り出すことが困難。しかしUC-OLEDでは、電荷移動状態から三重項励起状態に電子移動した後に、「三重項-三重項消滅」によって「一重項励起状態」を形成させることで発光として観測できるため、素子の発光効率から間接的に電荷移動→三重項励起状態電子移動の効率を議論することが可能だという。

UC-OLEDのEL発光スペクトルでは、三重項-三重項消滅を経由した青色発光と、中間体である電荷移動状態の輻射的な失活である電荷移動発光が観測される。そこで、材料の各組み合わせの電荷移動発光ピークより「電荷移動状態エネルギー」が、青色発光より発光効率が算出された。そして45種類のデバイスについて、発光効率と電子移動の駆動力の関係性がプロットされた。すると、電子移動の駆動力が小さい、つまりドナーの三重項エネルギーと電荷移動状態エネルギーが近い領域で発光効率が高くなる傾向が見られたとする。

  • 典型的なELスペクトル

    (a)典型的なELスペクトル。(b)45種類のデバイスの発光効率と電子移動の駆動力の関係(出所:共同プレスリリースPDF)

次に、界面相互作用が電子移動に与える影響を考慮するため、「光電流応答スペクトル」より電荷移動吸収が観測され、各デバイスの分子間電荷移動相互作用の評価が行われた。電子移動の駆動力が同程度である場合には、分子間電荷移動相互作用の強い組み合わせほど、効率的に電子移動できることが示唆されたという。

電荷移動吸収はドナー/アクセプター間の距離や分子配向、分子軌道の形の情報を含むため、電荷移動吸収強度はドナー/アクセプター間の電子カップリングが反映されている。そこで、発光効率を電荷移動吸収強度で割ることによって、電子カップリングで規格化した電子移動効率が得られる。ここで、「半古典的マーカス理論」(分子内振動による量子効果を取り入れた、電子移動を記述するための理論)に基づいて、プロットの形よりフィッティングが行われたところ、0.1eV以下の再配向エネルギーで実験結果をよく再現できることが確認された。これは、小さな再配向エネルギーに由来して、0.1eV以下の駆動力で電子移動が促進されていることを意味するとした。

  • 電子カップリングで規格化した電子移動効率と電子移動の駆動力の関係と、フィッティング曲線

    (a)電子カップリングで規格化した電子移動効率と電子移動の駆動力の関係(プロット)と、フィッティング曲線。(b)最適化デバイスの電流密度-電圧-輝度特性と、1.5V乾電池1本で得られた青色発光(グラフ内の画像)(出所:共同プレスリリースPDF))

最後に、探索された材料系の中で最も効率の良かった組み合わせについて、デバイス構造の最適化が行われた。その結果、1.5V乾電池1本で青色発光が得られたことに加え、従来までの3.3%よりも高い4.0%の最大外部量子効率が達成されたとした。

今回の研究成果は、超低電圧青色有機ELだけでなく、光アップコンバージョンの材料選択指針にもなり、エネルギー利用効率の高い社会の実現に資するといえるとした。また研究チームは今後、今回の研究で得られた知見をもとに新しい材料の探索を行い、市販の青色有機ELと同程度の発光効率の達成を目指すという。これにより、従来よりも大幅な消費電力の低減が可能となるとしている。