東北大学 惑星プラズマ・大気研究センター(PPARC)は8月10日、欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションの中でも最大級のもので、宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとする日本の複数の研究機関も参加している木星・氷衛星探査計画の探査機(ガニメデ周回衛星)「JUICE(JUpiter ICy moons Explorer:ジュース)」が8月20日6時16分(日本時間)に月に、翌21日6時57分(日本時間)には地球に最接近する形でフライバイを実施、併せてPPARCが開発した電波・プラズマ波動観測器「RPWI」の高周波受信機などの試験観測を行うことを発表した。
JUICEは、2023年4月14日にフランス領ギアナからアリアン5ロケットによって打ち上げられ、2031年7月に木星系に到着する予定。その後、2034年11月まで木星周回観測とカリスト、エウロパなどの木星のガリレオ(四大)衛星のうちの氷衛星のフライバイ観測を行い、同年12月に同じくガリレオ衛星の1つで、太陽系の衛星中では最大のガニメデの周回軌道に投入される(ミッション終了は2035年9月の予定)。
打ち上げからこれまで、地球とほぼ並走する軌道を航行してきており今回のフライバイが久しぶりの天体への接近となる。今回の月-地球フライバイ後は、2025年8月に金星フライバイを、2026年9月と2029年1月に地球フライバイを予定しており、その後、木星へ向かうことになる。木星の周回探査機はこれまで、ガリレオ(1989年10月~2003年9月)、ジュノー(2011年8月~運用中)があるが、木星の衛星の周回軌道に投入されるのはJUICEが初となる。
木星系の探査で最大の障害となるのが木星そのものだという。木星は電波源・放射線源として非常に強力なため、機器の故障リスクが高い上に、観測の際にも困難が伴う。しかし、衛星が木星を隠す時はその電波源が隠されることから、JUICEも氷衛星たちが木星を隠すタイミングで、「電波掩蔽観測」(電波吸収)により衛星電離大気を表面近傍から高高度まで観測する予定だという。
今回のフライバイでは、その予行演習も行われる予定。JUICEは地球-月圏と、金星でフライバイ(スイングバイ)を行うが、木星の氷衛星のように分厚い大気を持たない天体に接近するのは、今回の月が最後で、次は2030年代に入って現場の木星系でのこととなる。そこで、今回の月-地球フライバイが最後のテストの機会となる。
今回の月-地球フライバイでは、JUICEは地球の真夜中側からまず月に接近し、月フライバイに伴って、地球が月の影に隠れるタイミングが生じる。地球は、木星に比べたら非常に弱く、周波数も低いが、「オーロラキロメータ波」と呼ばれる強力な電波を北極・南極の上空数千kmにおいて放っている。月フライバイのタイミングは、木星と氷衛星による電波掩蔽観測を、地球と月において試せる絶好の機会となるという。
また、JUICEにはレーダー装置「RIME」(9MHz)が搭載されている。月への最接近時には、この送信で電波掩蔽観測は阻害されるが、レーダー波はパルス的なので間の時間帯でなんとか観測を行えそうだという。また、最接近からしばらくしてRIMEの送信は止まることから、以下も試す予定としている。
- RIMEの月面反射波を一緒に受ける。確認ポイントは「RIMEといっしょに受けて比較を行う」になる
- RIME停止後、地球のオーロラキロメータ波とその反射波を狙う
さらに地球への最接近時には、アラスカに設置されている電離圏探査用の「HAARPレーダー」からJUICEに向けて電波を送信し、RIMEと共に受信して強度と方向探知の検証を行うという(JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」に載せているPPARCで開発された「プラズマ波動・電場観測器」を用いて、2023年末から予備試験が実施されてきた)。
そして地球最接近後は、探査機を回転させながら地球のオーロラ電波の連続観測を実施し、電波源方向を識別できるかどうかを検証するとしている。これができると、木星や氷衛星近傍の「どこに電波源があるか」「どう屈折・反射して届くか」を確認できるようになるとしている。
なお、今回の月-地球フライバイは、「氷衛星と木星で行う観測」の事前検証を行う貴重な機会であると同時に、地球のオーロラ観測などにおいて、新たな発見も期待されるという。また、地球からのオーロラ電波やHAARPレーダー電波は10MHzまでだが、「あらせ」も観測可能なことから、こちらの同時観測も予定しているとしている。