北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は8月6日、象の鼻やタコの足などの器用さを持つ生物の自然構造を模倣した柔軟さを有する「連続体ロボット」(ソフトロボット)のための新たな触覚センシングプラットフォームを開発したことを発表した。

  • 今回開発されたConTacの概要

    今回開発されたConTacの概要。人間がロボットに触れると、ロボットは衝突を避けるために動きを変える(出所:JAIST Webサイト)

同成果は、JAIST ナノマテリアル・デバイス研究領域のHo Anh Van准教授、同・Nguyen Tai Tuan大学院生、同・Luu Khanh Quan大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、7月15~19日にオランダ・デルフトで開催されたロボティクス研究会におけるトップカンファレンス「Robotics: Science and Systems」にて発表された。

研究チームが開発を進めているソフトロボットは、象の鼻やタコの足などの自然構造の原理を応用することで、高い堅牢性や安全性を備えたロボットだ。ソフトロボットは、大半のタスクで必要となる自由度よりも多くの自由度を持ち、剛体ロボットとは異なる柔軟性や器用さにより、不測の事態への対応を可能とする。特に、障害物や外乱などがある環境下で真価を発揮するという。

しかし、ソフトロボットのように柔軟性の高いロボットは、動作中に複雑な屈曲やカーブを描くため、形状や動きを正確に把握することが課題となっている。解析によってそれらのロボットの運動学・動力学的問題を解決することは可能ではあるものの、複雑なモデリングが必要となってしまうとする。

そこで解析とは異なるアプローチとして考えられたのが、ソフトロボットに組み込まれた柔軟性を持つセンサを用いる手法だ。この手法では、ロボットの表面に取り付けたり覆ったりすることが可能だが、多くの低解像度センサを必要とし、システムが大型になってしまうという欠点も抱えていた。

その欠点を解決するための手段として、ロボットやアクチュエータの端に1つのセンサモジュールを使用し、大型化を避けて効率化を図るという手段が考えられている。しかしこれまでの研究では、ロボットの姿勢推定に重点が置かれており、ロボットの柔軟性に対応するための接触検出は含まれていなかったという。そこで研究チームは今回、柔らかいスキンを持つロボットアームの形状を推定し、接触を検出できるシステムの開発を試みたとする。

今回の研究では、ロボットアームの位置推定と触覚検出を行うことが可能な、ビジョンベースの触覚センシングシステム「ConTac」が開発された。同システムの最終的な目標は、ソフトロボットに実装することだというが、今回の研究では検証のため柔らかいスキンを持つ多関節ロボットアームを用いて“知覚”に焦点を当て、開発が行われた。

  • ConTacのフレームワーク

    ConTacのフレームワーク。センシングモデルの開発には、シミュレーション環境によるトレーニングデータの収集が用いられる。このシステムを搭載したロボットは、人間とロボットのインタラクションに用いられることが期待されている(出所:JAIST Webサイト)

ConTacには、ソフトロボットのような屈曲動作が可能な骨格、マーカー付きの柔らかいスキン、スキンの変形を撮影するカメラ、スキンの形状と触覚のセンシングモデルおよび接触機構が含まれる。また、シミュレーション上のデータで訓練した2つの深層学習モデルが使用されており、追加の調整を行うことなく、実世界のデータで動作できるという。さらに、知覚情報を用いてロボットアームの動きを決定するアドミタンスベースコントローラも開発されたとのことだ。

その後ConTacにおいて2つの異なるロボットモジュールでテストが行われ、その有効性が確認されたとする。さらに、形状情報と触覚情報を利用する制御戦略が開発され、ロボットアームが衝突に適切に対応できるようにされた。それらにより、今回のアプローチは、柔軟性の高いロボットの知覚と制御を大幅に改善できる可能性があることが明らかにされたとする。

またConTacは、キャリブレーションの必要なしで、同じ機構や形態を持つあらゆるロボットに適用可能だ。それを実現するため、シミュレーションデータのみで学習させた深層学習モデルが用いられた。それらのモデルは実際のロボットへ適応できるため、時間とリソースを短縮できるという。

なおConTacシステムを搭載した柔軟なロボットアームは、ロボットが障害物の多い環境をナビゲーションし、人間とロボットが安全に作業することが求められるスマート農業やヘルスケアサービスなどに適しているとする。また、その柔らかさと柔軟的な機構は、周囲の環境を感知する能力が組み合わさり、植物や患者などへの安全なインタラクションでもあるとした。さらに、今回の成果を発展させ、将来的には、既存のロボットシステムに簡単に組み込むことができる触覚センサの開発も期待されるとのこと。それにより、すべてのロボットが触覚を持つ社会となれば、産業と日常生活などに大きな変革をもたらすとしている。