パナソニックは6月25日、大阪公立大学 名誉教授の向本雅郁氏の監修の下、過敏性肺炎の主な原因となる「トリコスポロン」をはじめとする3種のカビに対するナノイー(帯電微粒子水)の殺菌効果を確認したことを発表した。

カビは増殖の過程において我々の目に見えないほど小さな「胞子」を空気中に放出することが知られており、水回りだけでなく、玄関やリビングなどさまざまな生活空間の空気中に生息している。そのため我々は無意識のうちに空気中のカビを吸入していることになる。

  • カビが生えた食パン

    ナノイーが照射された食パン(左)と照射されず放置されカビが生えた食パン(右)

過敏性肺炎は、こうしたカビが空気中に放出する胞子を繰り返し吸い込むことで発症する病気で、主にせきや発熱などの症状が現れる一方で、住宅などカビ胞子を吸入しうる環境にいる時のみ症状が現れ、屋外では無症状になる、風薬が効かないなどといった特徴を持っている。

症状が風邪やウイルス感染症に似ていることから、調査した患者の7割は、風邪など別の病気と診断された経験があるなど、診断も治療も難しいため、それぞれ3カ月以上かかるケースも多いといわれているほか、米国の死因統計によると過敏性肺炎による死病者数は年々増加しているという。

  • 米国の過敏性肺炎に基づく死病者数は年々増加

    米国では過敏性肺炎を原因とする死病者数は年々増加傾向にある (資料提供:パナソニック)

この過敏性肺炎のうち7割を占めるとされる夏型は、湿度の高6月ころから8月ころにかけて患者数が増加していきピークを迎えることが知られている。また、発症しやすいのは日ごろ自宅にいることの多い40~50代の女性(専業主婦)とも言われており、同社が一般家庭のリビングの空気を採集し、カビが生えるかをどうかの確認を行った調査でも、対象の62.5%の一般家庭から過敏性肺炎の病原カビが検出されたとしている。

  • 家の至る所にカビが発生している

    家の中の至る所に目に見えないカビが発生している

同社は、これまでナノイーにおける効果検証として、家の8大カビである、ハウスダストに含まれる主なカビ「コウジカビ(Aspergillus)」、「クロカビ(Cladosporium)」、「ススカビ(Alternaria)」、「アカカビ(Fusarium)」、「アオカビ(Penicillium)」、「カワキコウジカビ(Eurotium)」、風呂場に分布している「黒色カビ(Stachybotrys)」、土壌に存在する「ケカビ(Mucor)」に対する成長とカビアレル物質の抑制効果、ならびに有害なカビ3種である「クロカビ(Cladosporium sphaerospermum)」、「ユミケカビ(Absidia corymbifera)」、「赤色酵母(Rhodotorula rubra)」への不活化効果のメカニズムの一部解明などを行ってきた。

  • ナノイーを照射したガーゼと自然放置のガーゼ

    ナノイーを照射したガーゼ(左)と自然放置のガーゼ(右)の違い

  • カビが生えた食パンにナノイーを照射した結果

    カビが生えた食パンにナノイーを照射した結果。抑制効果が目に見えて分かる

しかし、過敏性肺炎の主な原因となるカビであるトリコスポロン(Trichosporon)に対する効果検証は行っていなかったことから今回の研究では、新たに過敏性肺炎の原因の7割以上を占めるカビ3種、トリコスポロン、クロカビ(Cladosporium)、カンジダ(Candid)で検証を行ったという。

病原カビへのナノイーの照射試験では、ナノイー発生装置を45L規模の試験空間の床面10cmの位置に設置し、その下に対象を滴下したガーゼが入ったシャーレを置くという条件のもと、ナノイーを照射。その後にカビの生存率がどのくらいになっているのか観察するカビの生菌数確認と、走査型電子顕微鏡を用いたカビの表面と断面を観察する形態変化確認が行われた。

その結果、ナノイー照射により、トリコスポロンが30分で99.8%殺菌、クロカビが2時間で99.7%殺菌、カンジダが30分で99.9%殺菌することが確認された。また、これら病原カビの細胞表面を観察から、ナノイー照射による細胞壁の破壊や凹み、空洞化を確認することができ、細胞断面に関しても空洞化を確認できたという。

  • ナノイー照射により、病原カビの99%殺菌が確認された

    ナノイー照射により、病原カビの99%殺菌が確認された (提供:パナソニック)

  • ナノイー照射により、病原カビの細胞壁の破壊/凹みも確認された

    ナノイー照射により、病原カビの細胞壁の破壊/凹みも確認された (提供:パナソニック)

なお、今回の検証は特定の試験条件での結果であり、実使用空間における効果を検証したものではないとパナソニックでは説明しつつも、同社は20年ほど積み重ねた研究に基づくナノイー技術の信頼性を強調。今後もナノイー技術を進化させるとともにその可能性を追求し続けていきたいとしている。