東京大学(東大)は7月8日、微生物の中でも大きな推進力を持つ「クラミドモナス」の鞭毛の運動性を阻害することのないトラップ構造を考案することで、さまざまな微細構造へ組み込むことを可能な技術を開発し、実際に同微生物によって液中で駆動する目に見えないほど小型の「マイクロマシン」を実現させたことを発表した。
同成果は、東大大学院 情報理工学系研究科の竹内昌治教授、同・小田悠加特任助教、同・清水直人大学院生(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、ナノ/マイクロスケールに関する学際的な分野を扱う学術誌「Small」に掲載された。
マイクロマシンは環境中の汚染物質の調査や除去、微小環境での物質の運搬などの分野での利用が期待されている。このようなマイクロマシンはその小ささこそが大きなメリットだが、そのために電池やモータなどを搭載・使用することが不可能。さらに、物質が小さくなるほど、水中を動く際に粘性が支配的になり、効率的に動かすことが困難になるという小ささ故の問題もある。そこで研究チームは今回、数μmのサイズでありながら効率よく水中を泳ぐことができる微生物、その中でも推進力の大きなクラミドモナスの推進力を利用することを考えたという。
クラミドモナスとは、体長10μmほどの、淡水に生息する真核単細胞の藻類で、2本の鞭毛、眼点、葉緑体などを有することを特徴とし、1秒間に100μmほど泳ぐことが可能なほど、微生物の中でも大きな推進力を持つ。また、ゲノムの解読も完了しており、分子レベル・細胞レベルでの植物生理生化学の研究材料としても使われている。しかし、同微生物は2本の鞭毛を平泳ぎの手のように動かして泳ぐため、この鞭毛の動きを阻害せずに任意の位置に固定することが困難だったとする。
そこで今回の研究では、クラミドモナスの推進力を生み出すべん毛の運動性を阻害することのない「かご状」のトラップ構造を開発。超精密三次元光造形装置を使用することで、同微生物と同じような大きさの構造が造形された。トラップ構造に隙間が多くあることから、鞭毛はトラップから外に出て動くことが可能で、またこの構造はさまざまな形に配置することが可能だという。今回の研究では4匹の同微生物が円形に配置された形と、2つの同微生物が同じ方向を向いている形の2種類が作製された。特に、同微生物を円形に配置したマイクロマシンは回転運動をすることが確認されたという。回転している間は大きくふらついたりせず、安定した姿勢を維持できていることも観察されたほか、同微生物の数によって回転速度が変化することも確認された。
今回の研究成果は、微細藻類の個々の動きを視覚化するのに役立つだけでなく、複数の個体が制約された条件下でどのように協調運動をするのかを分析する生物物理学的なツールに発展する可能性があるという。さらに、これらの手法は、水環境における環境モニタリングや、走光性を利用した物質輸送や動力伝達機構などのへの展開も期待できるとしている。