早稲田大学(早大)、千葉大学、名古屋大学(名大)、筑波大学の4者は7月4日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて、約133億年前(宇宙誕生から約4億6000万年後)の時代の銀河「SPT0615-JD1」(別名:コズミック・ジェムズ・アーク、宇宙宝石の円弧)の中に、これまでで最遠方となる、5つの極めてコンパクトな星団を発見し、それらが「球状星団」の祖先である可能性があることを突き止めたことを発表した。

同成果は、早大 理工学術院の井上昭雄 教授、千葉大 先進科学センターの大栗真宗 教授、名大大学院 理学研究科の田村陽一 教授、筑波大 数理物質系の橋本拓也 助教、スウェーデンのストックホルム大学/オスカー・クライン・センターのアンジェラ・アダモ博士、米国宇宙望遠鏡科学研究所のラリー・ブラッドリー博士らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された

おおよそ数十万個の星が密集する球状星団は、天の川銀河には周囲を取り巻くハロー部分に存在し、約150個ほどが確認されている。この球状星団の中でも、星同士の重力で集団が保たれているものは「自己重力星団」と呼ばれる。そして天の川銀河の星団の中には、何十億年もの間、自らの重力で集団を保ちながら生き延びてきたものもあることがわかっている。球状星団は宇宙初期に生まれた、いわば化石のような天体と考えられているが、いつどこで形成されたのかはまだよくわかっていない。

JWSTは、その高い観測性能により、現在までにおよそ134~135億年前(宇宙誕生から約億年後)の宇宙に存在する初期の銀河などの観測とその正確な距離の割り出しに成功している。今回の研究でもJWSTのその高い性能が活かされ、強い重力場による凸レンズ的に光が屈折する現象である「重力レンズ効果」も組み合わされた結果(長辺がおよそ100倍に拡大されて観測)、約133億年前の時代の宇宙に存在する銀河であるコズミック・ジェムズ・アークを数光年のスケールで解像することに成功。同銀河の中に、5つの極めてコンパクトな星団を発見することに成功したとする。研究チームでは、この5つのコンパクトな星団は、球状星団の祖先であることが考えられるとしている。

また、コズミック・ジェムズ・アークのコンパクトな星団は、天の川銀河の球状星団より質量が大きく、恒星の数密度が高いことも判明したことも踏まえ、今回の発見は、初期宇宙の若い銀河において、球状星団がどのように誕生したのかを解明するための大きな一歩になると期待されると研究チームでは説明しており、今回発見された星団の特徴である星密度の高さは、星団の内部で起こっている何らかの物理過程を示唆するものだとするほか、銀河の進化にとって重要な大質量星や、ブラックホールの種の形成についての新たな視点を与える可能性があるともしている。

現在、超大質量ブラックホールがどのようにして誕生したのかわかっていないが、宇宙誕生からわずか5億年ほどの宇宙にすでに存在していることが確認されている。それだけの短時間で、なぜ太陽質量の100万倍以上(現在、100億倍以上の超大質量ブラックホールも観測されている)という規模にまで成長できたのかは謎であり、その起源に関しては、高密度な星団中でブラックホールの合体頻度が高まることで、より大質量なブラックホールが誕生するという仮説や、恒星同士の合体が暴走的に起こることで超大質量な恒星が誕生する仮説などが理論的に提案されてきたが、今回発見された高密度な星団は、まさにその舞台となる可能性が秘められているとする。

なお、研究チームでは、今回の研究成果について、球状星団の起源に迫ることだけでなく、「宇宙の夜明け」とも称される、宇宙誕生後から1~数億年後の第1世代の星(ファーストスター)が誕生し、10億年後ぐらいまでの時代に起きた、宇宙中の中性水素ガスの再電離化イベントの解明についても大きなヒントを与えるとしており、今回発見された星団は、宇宙再電離を引き起こした紫外線源である可能性もあるとしている。

  • 今回発見された星団の概要

    今回発見された星団の概要 (c) ESA/Webb, NASA & CSA, L. Bradley (STScI), A. Adamo (Stockholm University) and the Cosmic Spring collaboration (出所:プレスリリースPDF)