情報通信研究機構(NICT)は7月5日、商用運用されている第5世代移動通信システム(5G)携帯電話基地局からの電波ばく露レベルを複数地点で測定したところ、従来の携帯電話システム(4G)のレベルと同程度又はそれ以下であることが確認されたことを発表した。

同成果の詳細は2024年4月に国際学術論文誌「Bioelectromagnetics」に掲載されたほか、同年5月に開催された「EMC Japan/APEMC Okinawa」でも発表されたという。

日本で一般的に活用されている無線機器からの電波は、電波防護指針に基づき、人体に悪影響を及ぼさない範囲で利用されているが、海外では、5Gの基地局から発せられる電波による健康不安がその展開の障害となっているという事例もあり、日本でもそうした不安の声が一部から上がっていることから、NICTでは電波環境の測定技術を有する公的研究機関として2019年より大規模な電波ばく露レベルの長期測定を開始。測定方法としても、定点測定、スポット測定、携帯型測定器による測定、電測車による広域測定などを組み合わせる形で、データの偏りを抑え、大規模かつ詳細な電波ばく露レベルのデータを取得してきたとする。

今回の研究では、商用サービス中の5G携帯電話基地局から電波ばく露レベルのスポット測定を都内および近郊で実施。5Gでは主に6GHz以下(FR1)と28GHz帯(FR2)の2つの周波数帯が用いられているが、FR1は東京都内および近郊51か所(51地点)、FR2は東京都心の3か所(15地点)にて測定が行われた。

FR1の測定はスペクトラムアナライザと電界プローブを用いる形で、日本の電波法施行規則で定められた測定手順に準拠した測定を実施。FR2の測定は電界プローブの代わりに28GHz測定用アンテナにて実施したほか、いずれについても測定場所付近の携帯電話端末(スマートフォン)にデータをダウンロードしながらの測定も実施。FR1は6GB、FR2は10GBのデータを約1分間ダウンロードして、測定で得られたデータを統計処理し、過去の測定結果との比較が行われた(データダウンロード時、携帯電話端末より基地局に送信を行うことになるが、測定結果に携帯電話端末からの電波の影響が少なくなるような条件をあらかじめ検討して実施)。

  • 28GHz帯(FR2)の測定を行っている様子

    28GHz帯(FR2)の測定を行っている様子 (出所:NICT)

その結果、データのダウンロード有無の比較では、データをダウンロードした時の方が、レベルはFR1で約70倍、FR2で約1000倍大きくなることが判明したとするが、従来の4Gシステムの基地局を対象に行った過去の測定結果と比較したところ、データをダウンロードした時でも、レベルは同程度またはそれ以下であることが確認されたとしており、いずれの場合であっても、電波防護指針に対して中央値で約1万分の1以下という低いレベルとなったとするほか、今回得られた電波ばく露レベルは、フランスにて行われた5G FR1基地局の測定結果(5G FR1として3.5 GHz帯の測定を1358地点で実施。中央値で1.19 V/m)と比べても12%程度であったともしている。

  • 電波ばく露レベル(中央値)の測定結果

    電波ばく露レベル(中央値)の測定結果。なしはスマートフォンの電源オフ、ありはスマートフォンにデータをダウンロードした状態 (出所:NICT)

なお、NICTによると、今回の結果は、日本で5Gが導入されてから初めての測定結果となるもので、今後のさらなる5Gの普及によって電波ばく露レベルがどのように変動するかを明らかにするための参照データとなるものだとしている。そのため、NICTでは少なくとも2040年までは測定を継続し、結果を学会などで発表していくとしているほか、海外における電波ばく露レベルの調査活動とも連携し、国際的に相互比較可能な電波ばく露レベル測定データの取得・蓄積・活用の実現に取り組んでいくとしている。