日本マイクロソフトは6月27日~28日の2日間で、開発者向けの年次カンファレンス「Microsoft Build Japan」を開催している。27日の基調講演では、米Microsoftが5月に開催した「Microsoft Build」で発表された内容と、最新の技術情報や日本における独自の取り組みなどが紹介された。

  • 日本マイクロソフトは、開発者向けの年次カンファレンス「Microsoft Build Japan」を開催中だ

    日本マイクロソフトは、開発者向けの年次カンファレンス「Microsoft Build Japan」を開催中だ

進化し続ける「Copilot」

マイクロソフトが提供する生成AI「Microsoft Copilot」は進化を続けている。同社は、個人だけでなくチームの業務を支援する「Team Copilot」のプレビュー版を2024年後半に提供する予定。「会議の進行役」として利用したり、チーム間の伝達を促進したりする機能を備えるという。

例えば、Copilotを会議の進行役として追加すると、会議中にリアルタイムでメモを生成し、アジェンダを表示して会議を進行してくれる。参加している全員が会議中にそのメモを編集することも可能だ。ほかにも、グループチャット内に「共同作業者」の一員としてCopilotを追加することで、チャット内でのこれまでの会話や共有ドキュメントへの質問に答えてくれる。

  • 「Team Copilot」の概要

    「Team Copilot」の概要

基調講演に登壇した日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「Copilotは個人利用に特化したAIから、チームメンバーの一員として利用できるAIへと劇的に進化している。今後はエージェントとしてより複雑なタスクに対応できるAIへとさらに進化していく」と説明した。

  • 日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長 岡嵜禎氏

    日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長 岡嵜禎氏

マイクロソフトは6月18日、Copilotの機能が端末上で直接実行できるようになったWindows PC「Copilot+ PC」の国内販売を開始した。最先端のCPU(中央演算処理装置)、GPU(画像処理半導体)に加え、AI処理に強いNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)が新たに搭載され、マイクロソフトが提供する小規模言語モデル(SLM)を活用することで、クラウド上ではなく端末上で直接AIを実行できるようになった。9月には法人モデルも展開される予定だ。

  • マイクロソフトは6月18日に「Copilot+ PC」の国内販売を開始した

    マイクロソフトは6月18日に「Copilot+ PC」の国内販売を開始した

Copilot+ PCに搭載される新機能としては、ほぼリアルタイムに手描きと文字によるプロンプトで画像を生成できる「コクリエイター」やPC上で以前に見かけたことがある情報を即座に探し出すことができる「リコール」などがある。なお、リコールは現在、標準搭載されておらずプレビュー版(Windows Insider Program)のみの提供となる。利用するにはCopilot+ PCの設定で同機能を有効にし、生体認証「Windows Hello」の登録が必須だ。

  • 「コクリエイター」機能イメージ

    「コクリエイター」機能イメージ

岡嵜氏は「Copilot+ PCは1秒あたり40兆回もの演算ができる非常にハイスペックなPCだ。そして、ネットワークにつながっていなくてもデバイス上でAIの処理ができ、ユーザーの体験の幅がさらに広がるだろう」と、Windows史上最も高性能なPCに自信をのぞかせた。

「GPT-4」の6倍の性能を持つ新モデルの実力

マイクロソフトは、顧客企業が自身でCopilotを構築できるようにするための支援も強化している。2023年に発表したCopilot の技術スタック「Copilot stack」を通じて、独自のCopilotを作るためのさまざまな機能を提供している。

独自のCopilotを開発するうえで最も重要なのが、AIの核となる「基盤モデル」だ。米OpenAIと強力なパートナーシップを築いているマイクロソフトは「Azure OpenAI Service」を通じて、OpenAIのさまざまな基盤モデルやサービスを提供している。

  • マイクロソフトは「Azure OpenAI Service」を通じて、OpenAIのさまざまな基盤モデルやサービスを提供している

    マイクロソフトは「Azure OpenAI Service」を通じて、OpenAIのさまざまな基盤モデルやサービスを提供している

Microsoft Buildでは、OpenAIの最新のモデル「GPT-4o(フォーオー)」がAzure OpenAI Serviceで利用可能になったと発表された。従来のモデル「GPT-4」と比べて、反応速度が6倍、コストが12分の1になったGPT-4oは、テキストだけでなく、音声や画像を組み合わせて入出力ができるマルチモーダルに対応している。

伊藤忠商事やソフトバンク、JAL、サイバーエージェントといった国内企業もすでに導入しており、「パフォーマンスとコスト効率が最適化され、現実的なコストで導入できるようになった」(岡嵜氏)という。

  • OpenAIの最新のモデル「GPT-4o(フォーオー)」は性能が格段に上がった

    OpenAIの最新のモデル「GPT-4o(フォーオー)」は性能が格段に上がった

基調講演では、GPT-4oと連携したビデオゲーム「Minecraft」をプレイするデモが紹介された。ゲームのプレイ中にプレイヤーが音声で「剣の作り方を知りたい」と伝えると、AIは音声で「剣を作るにはいくつかの材料が必要だよ。棒があるね、剣の柄にぴったりだ。でも刃の材料が足りないから集めにいこう」と、プレイ中のゲーム画面の状況に応じて、アドバイスをしていた。

  • GPT-4oと連携したビデオゲーム「Minecraft」は音声ベースでAIと対話できる

    GPT-4oと連携したビデオゲーム「Minecraft」は音声ベースでAIと対話できる

岡嵜氏は「GPT-4oは、音声に加えて、画像や動画を瞬時に処理し状況に即した出力をしてくれる。ゲームでの活用は一例で、今後、マルチモーダルAIのさまざまなユースケースが増えるだろう」と述べた。

基盤モデルの選択肢を拡充、「tsuzumi」の提供も開始

マイクロソフトが提供する基盤モデルは、OpenAI製だけではない。MaaS(Model as a Service)プラットフォームとして、クラウドサービス「Microsoft Azure」上でさまざまな基盤モデルを提供している。

  • OpenAI製だけでなくさまざまな基盤モデルを提供している

    OpenAI製だけでなくさまざまな基盤モデルを提供している

国産のLLM(大規模言語モデル)も例外ではない。同社はNTTグループが手掛ける「tsuzumi(ツヅミ)」を11月以降に提供を開始する。tsuzumiは、NTT研究所の自然言語処理技術を基にした大規模言語モデル。日本語と英語に対応し、特に日本語処理に優れているのが特徴だ。

基調講演に登壇したNTTデータ 取締役常務委執行役員の冨安寛氏は「tsuzumiは専用のプライベート環境で利用したい企業向けのLLMで、多くの企業から問い合わせをもらっているが、『もっと早く利用を開始したい』といった声も少なくない。セキュリティレベルが高いAzure上で提供することにより、企業は簡単かつクイックに生成AIを体験できる環境を構築できるようになる」と説明した。

  • NTTデータ 取締役常務委執行役員 冨安寛氏

    NTTデータ 取締役常務委執行役員 冨安寛氏

セブン銀行、ATMの体験を変えるAIアバターを公開

基調講演では、Azure OpenAI Serviceを導入するセブン銀行の事例も紹介された。

セブン銀行は、7月に「GPT部」という組織を立ち上げ、グループ横断でAIの活用を進めており、将来的には全社での活用を目指している。

例えば、ATMの設置場所の候補を探索する際に人流データをAIで分析したり、ATMにおける現金の需要をAIで予測したり、課題ベースのアプローチで利活用を進めているという。

  • セブン銀行はAIの利活用を推進している

    セブン銀行はAIの利活用を推進している

生成AIの活用も徐々に進めているといい、独自のAIアシスタント「7Bank-Brain」を内製で開発したり、コンタクトセンターのチャット応対の内容を要約させるPoC(概念実証)を行ったりしているとのこと。将来的には、ATMのお問い合わせ対応を生成AIが対話ベースで行えるようにしていきたい考えだ。

  • ATMにマルチモーダルな生成AIを連携させたイメージ

    ATMにマルチモーダルな生成AIを連携させたイメージ

セブン銀行 常務執行役員 コーポレート・トランスフォーメーション部の中山知章氏は「AIやデータの利活用はあくまでも手段で、目的は何かを常に意識する必要がある。生成AIも万能ではなく、組み合わせによる活用が肝だ。そして、とにかくやってみる、いじってみるという心意気が重要」と見解を述べていた。

  • セブン銀行 常務執行役員 コーポレート・トランスフォーメーション部 中山知章氏

    セブン銀行 常務執行役員 コーポレート・トランスフォーメーション部 中山知章氏