岡山大学は6月25日、健常な日本人学生における唾液の「緩衝能」(溶液のpH(水素イオン指数)を一定に保とうとする働き)と味覚の感受性との関連を調べた結果、緩衝能と関連すると考えられていた酸味の感受性は唾液緩衝能と明確な関連はなく、うま味感受性のみが唾液緩衝能と関連することを発見したことを発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 医歯薬学域(歯) 口腔生理学の吉田竜介教授、同・兵藤藍子大学院生(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、口腔および頭蓋顔面科学に関する学術誌口腔および頭蓋顔面科学に関する学術誌「Archives of Oral Biology」に掲載された。
唾液は、今回の研究で対象とされた緩衝のほかに、粘膜保護、自浄、水分平衡、潤滑、抗菌、消化、組織修復、再石灰化、発ガン予防など、口腔内において実に数多くの役割を担っていることが知られている。
緩衝能とは、溶液においてはpHを一定に保とうとする働きのことをいうが、唾液の緩衝能の場合は、口内の酸(pHの値が低く、水素イオン濃度が濃い状態)やアルカリ(pHの値が高く、水素イオン濃度が薄い状態)を中和する役割を持つ(唾液に含まれる重炭酸イオンによって酸性やアルカリ性に偏った場合は中和される)。これにより、歯が酸で溶かされてしまうことを防いだり、酸による組織の損傷を和らげたりすることが考えられるという。一方、緩衝能は酸を和らげることから、酸味を抑制する可能性も推測されていた。そこで研究チームは今回、唾液緩衝能と味覚感受性との関連について調べたとする。
実験では、岡山大 歯学部の学生87名(男性43名、女性44名、平均年齢21.7才)が参加者となって、安静時の唾液分泌量、唾液緩衝能、5基本味(甘味・うま味・塩味・酸味・苦味)に対する認知しきい値(ある刺激をした時にその刺激の質がわかる最小の刺激量のことで、味覚の場合、味の質がわかる最も低い濃度のことを指す)について測定を実施し、その関連性についての検討が行われた。
その結果、唾液緩衝能が高い人ほどうま味(ヒトの場合、主にグルタミン酸や核酸により生じる味で、嗜好性(=おいしさ)に関係する)の感受性が高いという相関関係があることが確かめられた。だが一方で、酸味を含む他の味覚にはそのような相関関係が見られなかったことから、唾液緩衝能はうま味の感受性に影響する可能性が示されたとする。
唾液緩衝能は上述したように、これまでは歯を酸から守ったり、虫歯になるのを防いだりといった役割があると考えられてきた。それが今回の研究成果により、味の感じ方にも影響を与えていることが明らかにされた。特に、唾液緩衝能が高いと、嗜好性に関わるうま味をより強く感じさせることから、食べ物の消化に必要なだけでなく、よりおいしく食べるためにも唾液は重要な役割を果たしていることが考えられるという。研究チームを率いた吉田教授は、しっかりと唾液が出ることが、より食べ物をおいしく食べるために重要かもしれない、としている。