早稲田大学(早大)は4月17日、野菜(キャベツ)を「咀嚼して食べる時」と「咀嚼せずに食べる時」の食後における代謝への影響を調べたところ、噛むことで食後の血糖値を下げるホルモンである「インスリン」がしっかりと分泌され、その作用機序の1つとしてインスリンの分泌を促す作用を持つホルモンである「インクレチン」が食後の初期段階で刺激されることを発見したと発表した。

同成果は、早大 スポーツ科学学術院の宮下政司教授、同・大学 スポーツ科学研究センターの亀本佳世子研究助手らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

  • 今回の研究成果の概要

    今回の研究成果の概要(出所:早大Webサイト)

食事により誰でも血糖値が上昇するが、健常者なら血糖値を下げる働きを持つインスリンが分泌され、体内に糖質を取り込むため血糖値が下がる。ところが、食後のインスリン分泌が少ない場合や働きが不十分だと、血糖値が高いままの状態である「食後高血糖」となってしまう。食後の血糖値が高い状態が続くことは糖尿病予備群の可能性があり、さらに動脈硬化のリスクもある。

食後の血糖値の上昇を抑える方法の1つとして、「(よく)咀嚼(そしゃく)すること」がある。咀嚼は消化の最初のプロセスであり、固形物を粉砕し唾液の分泌を促すことに加えて、エネルギー吸収にも関与し、充分な咀嚼は空腹感を抑える。健康な成人を対象とした研究では、食事の前にガムを噛む、または食事中の咀嚼回数を増やすことにより、食後の血中「グルカゴン様ペプチド-1」(GLP-1)や、「グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド」(GIP)などのインクレチンの分泌が促進され、早期のインスリンの分泌が促されることで食後血糖値の上昇が抑制されることが確認されている。

  • 今回の研究のプロトコル図

    今回の研究のプロトコル図(出所:早大Webサイト)

食事で最初に野菜を食べる「ベジタブルファースト」も、食後血糖値の上昇を抑える働きがある。これは、野菜に多く含まれる食物繊維が関係していると考えられている。また、野菜の形状の違い(固形または液状)によって食後血糖値に及ぼす影響が異なることも報告されている。しかし、野菜を咀嚼して摂ることが食後血糖値とインスリンやインクレチンなどのホルモンの分泌に及ぼす影響は不明だったという。そこで研究チームは今回、食前に固形の野菜を咀嚼して摂取することが食後の糖代謝に及ぼす影響についての検証を行うことにしたとする。

今回の研究では、19人の健康な成人男性(平均22歳)を対象とし、野菜を噛んで食べる「咀嚼条件」(千切りキャベツ+ゼリー飲料)と野菜を噛まずに食べる「非咀嚼条件」(キャベツ粉砕物+ゼリー飲料)のそれぞれ2条件に参加する交差試験が実施された。なお今回の研究では、野菜を「咀嚼して食べる時」と「咀嚼せずに食べる時」の代謝への影響の検討のため、ほかの食品としては咀嚼せずに摂取できるゼリー飲料を用いることにしたとする。

食事開始の0分から、15分、30分、45分、60分、90分、120分、180分後に、それぞれの条件で採血が行われ、「血糖」、血糖値変動メカニズムの指標として「インスリン」と「インクレチン(GIP、GLP-1)」の血中濃度が調べられた。細かく見ると、まず試験全体(180分)におけるインスリンおよびGIPの上昇曲線下面積は、咀嚼条件で高値を示すことが確認された。一方、血糖では明らかな差は確認されなかったという。

  • 血糖およびホルモンの上昇曲線下面積。条件間で統計学的な有意な差が認められた

    血糖およびホルモンの上昇曲線下面積。条件間で統計学的な有意な差が認められた(出所:早大Webサイト)

また、消化吸収速度で血中の応答が変わってくるGLP-1には、胃内容物排出の遅延を介した食後の血糖値の上昇を抑制する作用を有するため、GLP-1の血中の経時変化による解析が行われ、比較がなされた。すると、咀嚼条件で食事開始45分から90分の時間帯で高値を示すことが確認された。一方、試験全体(180分)におけるGLP-1の上昇曲線下面積では明らかな差は確認されなかったとした。

  • GLP-1の経時変化

    GLP-1の経時変化。条件間で統計学的な有意な差が認められた(出所:早大Webサイト)

なお、食後のインスリンやインクレチン分泌が促進されたにも関わらず、今回は条件間で食後血糖値の差が認められなかった理由は、試験食が一般的な食事とは異なるゼリー飲料だったことが理由の1つとして考えられるとした。

インスリンは、食事による血糖値の上昇により分泌される場合と、インクレチンによって分泌される場合がある。今回の研究において、野菜を「咀嚼して食べる」ことが、どちらに作用、あるいは両方に作用したのかは不明とする。魚や肉に含まれる脂肪酸がインクレチン分泌を促すことが知られていることから、今後は、野菜と一般的な食事とを組み合わせ、「ゆっくりとよく噛んで食べる」ことで、今回の研究と同様に食後にインスリンやインクレチンの分泌が促進され、食後の血糖値の上昇を抑えられるのかどうかということを幅広い年代や性別で調査する必要があるとしている。