日本の大手生活用品メーカーであるライオンは、同社の製品情報やデジタルアセット管理基盤に「Adobe Experience Manager」を採用し、全社的なコンテンツサプライチェーンの最適化で顧客体験を向上させている。

今回は、ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン 戦略・開発グループの榎本裕美子氏に導入の経緯とその効果を聞いた。

  • ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン 戦略・開発グループの榎本裕美子氏

    ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン 戦略・開発グループの榎本裕美子氏

Adobe Experience Managerで製品情報ポータルを構築

ライオンは「より良い習慣づくりで人々の生活に貢献する」というパーパスを掲げ、次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーとして成長を促進する事業基盤への変革への取り組みの一環として、社内DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を行っている。

現状はDX推進の第1歩としてデジタル上でのデータ化を進めており、その最たる例で「製品ポータルの導入」を行った。この製品情報ポータルに採用されているのが、アドビの包括的なクラウドサービス「Adobe Experience Cloud」のデジタルエクスペリエンス管理ソリューション「Adobe Experience Manager」だ。

ライオンの製品情報ポータルは、製品の画像や基本情報を一元管理することで、ブランドガバナンスを強化するとともに消費者からの問い合わせ対応や販売店との商談時の資料作成業務を効率化し、パーソナライズされた顧客体験の向上を実現しているという。

  • 製品ポータルのイメージ

    製品ポータルのイメージ

「製品ポータルを立ち上げる以前からデータベースはあったのですが、すべての製品に関する情報がそのデータベースに蓄積できていた訳ではありませんでした。営業部門で最新情報を持っていたり、事業部・ブランドごとに管理をしていたり、と情報が分散されてしまっていて、情報を必要するときに探し出すのも一苦労の状態でした。情報を持っていそうな人とつながり、どうにか情報をキャッチアップすることが必要になってしまっていたことから、属人的で業務効率が悪い側面があったと思います。それによる工数肥大化は課題でした」(榎本氏)

これらの課題を踏まえてAdobe Experience Managerを導入したライオンだったが、導入の検討からリリースするまでには、さまざまな協議が行われたという。

「元々のデータベースがあったので、どのように活かすのが良いだろうと時間をかけて考えました。既存のものを活かしつつ他のソリューションを組み合わせて開発するのが良いのか、別のものにリプレイスして実装した方が良いのか、他のプロジェクトと融合させて一緒にやった方がいいのか……。結果として、それらを全社的に1つのプロジェクトとして進行し、関連部署の巻き込みに成功し導入に至りました」(榎本氏)

また時間を掛けて進めたのは、導入前だけの話ではない。Adobe Experience Managerの導入自体は2021年12月に納入していたが、その導入後に、過去に販売していた製品情報から販促/宣伝活動における施策データまで製品にかかわる情報を全社的に一元管理する「製品ポータル」にするための開発を行う期間として約1年を要しており、運用が開始されたのは2022年10月だったという。

営業部門とお客さまセンターで活用される製品ポータル

このように戦略的な検討期間を経て導入が開始されたAdobe Experience Managerだが、現在ではIT部門や、営業部門、お客さまセンターといった全社での活用が進んでいる。

営業部門では、エリア担当ごとに同じ情報収集の作業が発生してしまい、業務における非効率が課題だったが、今回の導入によって、情報の一括集中管理ができるようになり、今まで膨大な時間を掛けていたデータ収集の時間を削減しつつ、効率的な営業活動を実施できるようになったそうだ。

しかし今回の導入によって、情報が一括集中管理ができるようになったので、今まで膨大な時間を掛けていたデータ収集の時間を削減しながら、効率的な営業活動を実施できるようになったそうだ。

もう1つの製品ポータルの活用部門であるお客さまセンターでは、顧客の手元にある商品について問い合わせがあった際に、スムーズに商品情報を回答するためにこのポータルサイトを活用している。

製品の画像データや詳細をすぐに確認でき、実際の製品を手に取っているかのようなサービスの情報を製品ポータルで確認できるため、適切でスムーズな説明を顧客に行えるという。

1〜2週間かかる作業を数時間で

榎本氏は、製品ポータルを導入した効果について「製品情報のスムーズな検索が可能になったことに加え、お客さまや販売店に迅速に情報を提供できるようになっただけではなく、ブランド管理のガバナンスが強化されることによって顧客体験の改善にも寄与している」と語った。

また、新製品発売時など、マニュアル作業ではなくアセットを自動で登録する仕組みを構築したことで、各部門での管理や情報登録作業が不要となったほか、Adobe Document Service APIの活用により、製品の仕様書作成の効率が向上したことも大きな効果だったという。

ユーザーは、Microsoft Wordのテンプレートを元に製品情報をPDFに出力できるため、テンプレートを変更するだけで仕様書作成ができるなど、業務効率化も実現している。

「従来は、必要な情報を集めて資料にまとめるという作業に1〜2週間かかっていましたが、Adobe Experience Managerに集まった製品情報をAdobe Acrobat Service APIs(Adobe Document Generation API)を通じて引き出すことができるようになったことで、数時間でPDFとして出力することができるようになりました」(榎本氏)

ここまで製品ポータルを通じたライオンのDXの取り組みを紹介してきたが、同社ではツールの導入だけにとどまらず、ツールを使いこなす人材の育成も同時に行っているという。

榎本氏は「弊社では、DXを推進するためには『デジタルを活用する人材』が必要になってくると考えているため、次世代のIT・デジタル活用人材の育成に向けたプログラムも始動し、定期的に座学やワークショップなどを開催している」とも語った。

最後に榎本氏に今後の展望を聞いた。

「今はあくまでも製品ポータルの活用先が社内に閉ざされている状態ですが、今後はコーポレートサイトやブランドサイトなど、社外に公開できる形での活躍も期待しています。社外への情報発信にも使っていくことができると、より全体的な工数削減にも寄与すると思っていますし、お客さまにリアルタイム性を持った情報開示ができるようになるのではないかと考えています」(榎本氏)