無人決済店舗の導入からAIカメラの活用、リテールメディア構想まで。DXを通じて地域の顧客に選ばれ続ける存在になるために、東急ストアが挑む変革のストーリーとは。
5月21日、22日に開催されたウェビナー「DCSオンライン × TECH+ セミナー 2024 May. リテールDX ~データ活用×店舗DXの両輪で顧客体験価値を加速する~」の基調講演にて、東急ストア 代表取締役社長 大堀左千夫氏が同社のリテールDX戦略について紹介した。
ビジネスモデル変革の起爆剤として、小さな業務改善も含めたDXを推進
大堀氏は同社のDX戦略について「DXの一般的な定義は、データやデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革を通じ、企業としての優位性を高めていくことを指すが、私としては、企業個々の環境や考えによってオリジナルのDX定義があってむしろ当然だと思う」と前置きした上で、東急ストア独自の取り組みについて語った。
同社では、DX戦略の指針として「IT基盤強化」「顧客の利便性向上」「従業員の生産性向上」の3軸を掲げている。大堀氏の「MDの進化とともにデジタル化によるビジネスモデルの変革が必要だと社内で繰り返し話をしている」という発言からは、DXを単なるツールの導入ではなく、ビジネスモデル変革の起爆剤と捉えていることが分かる。
DX推進にあたっては、既存の仕組みやシステムの有効活用、他社の事例研究、課題解決に向けた新たなソリューションの開発・導入を方針としている。大堀氏は「DXというと構えがちで、従業員にとってはややとっつきにくいと感じてしまうので、どんな小さな業務改善でも、お客さまのサービス向上につながるデジタル活用であればDX項目として認定する」と、従業員参加型のDX推進を重視しているそうだ。
決済のデジタル化によるCX向上
具体的な取り組みとして、無人決済店舗「TOUCH TO GO(TTG)」の導入がある。無人店舗には大きく分けて、レジレス形式のジャストウォークアウト型、自分で会計を行うスマホレジ型、レジありのスキャンレス型の3つのタイプがあるが、TTGはレジありのスキャンレス型を採用している。東急ストアでは、たまプラーザ内の従業員休憩室で実証実験を開始しており、実証実験で見えてきた課題をクリアしながら複数店舗展開を進めている。大堀氏は「一般のお客さまをターゲットとした新規業態としての出店や、駅売店を中心とした既存店の業態変更につなげることにより、幅広い展開を見据えている」と今後の展望を語った。
スマホ型レジアプリ(スマホPOS)の導入も検討中だ。顧客の使用頻度向上と従業員の負荷軽減に着目し、利用者モニター50名の声を聞きながら本格導入前の実証実験を行っている。大堀氏によると、最終的にはオウンドアプリに組み込むことを想定しているという。「一石二鳥に留まらず、三鳥、四鳥を狙い、CX向上なども踏まえて顧客接点の集約を目指していく」と、スマホPOSを起点としたCX戦略の可能性に言及した。
AIカメラの活用事例
食の安全・安心への取り組みとして、AIカメラを活用したラベル表示違い防止システムの実証実験も開始している。製造・盛り付け後のラベル発行前にAIカメラでチェックすることで、従業員の思い込みや伝達ミスなどのヒューマンエラーを低減させることが目的だ。大堀氏は「表示違いについては発生しないことが当たり前であるので、この仕組みについてはROIに捉われずに、柔軟な観点で導入に向けた検討を行っていきたい」と述べ、安全・安心を最優先する姿勢を示した。
店舗の生産性向上に向けては、AIによる売り場カメラの導入を進めている。売り場と商品在庫用倉庫との距離が遠い店舗での課題解決を目的とし、従業員が遠隔で品切れ・品薄を検知できるシステムだ。将来的には単品単位での検知やさまざまな作業への活用も検討中である。大堀氏は「このカメラを活用した一石三鳥、四鳥を狙い、さまざまな作業への活用のアイデア出しを行い、検討を進めている」と、AIカメラを起点とした業務改革の可能性を示唆した。