約3年前から、全社でデータを活用できるようにするための仕組みを構築している清水建設。他社と同様、一部の社員はデータを活用して業務を進めていたが、あくまで個人の活動にとどまっていた。
とはいえ、一気に全社員がデータ活用できるような状況を作り上げることは難しい。同社のデータ活用推進のポイントはスモールスタート、かつ、ボトムアップで進めている点だ。
同社ではどのような形でデータ活用を進め、また、「草の根活動」とも言える、同社のデータ活用はどのような成果を出しているのだろうか。
データマネジメントを統括しているデジタル戦略推進室 DX推進部 DX推進グループのグループ長 岡崎良孝氏、主査 半田貴志氏、吉野友貴氏に話を聞いた。
全社でデータを活用するためにDenodoを導入
清水建設は全社でデータ活用を進めるため、2021年に全社のデータマネジメントを担当するデータ管理グループを立ち上げ、岡崎氏らは同グループに所属していた。今年4月に、DX推進グループが新設され、業務の幅が広がったそうだ。
岡崎氏は、「データ分析を業務で行っている人は限られていました。そのため、データ分析に興味がある人に対して、それを始めるハードルを下げるのにどうしたらいいかということを考えました」と話す。
そして、最初から全社のデータ活用を進めるのは難しいとの判断から、小さくてもスピーディーに成果を出す、つまり、目の前の取り組みから進めるというアプローチをとることにしたという。そのための施策の一つとして導入されたのが、データ仮想化プラットフォーム「Denodo」だ。その選択の理由について、半田氏は次のように語る。
「同業他社が利用していたことに加え、仮想統合がいい仕組みだと思いました。Denodoであれば、いきなりDWHを作るのではなくスモールスタートができますし、手持ちのBIツールであるPower BIも活用できます」
PoCで部門ごとの残業時間を可視化
2021年にDenodoを導入した後にトライアルを実施し、翌年10月には本稼働をスタートした。
トライアルでは、人事部門が集計していた各部門の残業時間をDenodoで加工して、Power BIで可視化した。それまでは、本社人事が各支店にExcelのデータを配って 各支店でレポートを作成して提出していたため、時間がかかっていた。
そこにDenodoとPower BIによる仕組みを導入したところ、DenodoとPower BIが自動でレポートを作成するため、現場の担当者は出来上がったレポートを見るだけでよくなった。単一のデータソースで可視化されているので、以前のように集計レポートを作ることも配ることもしなくてよくなったのだ。
このトライアルにより、人事部門をはじめとした現場のユーザーに、データを活用すれば業務がラクになることを実感してもらえたという。
トライアルと並行して、BIツールの標準化も進めた。同社ではPower BIを標準のBIツールとしている。その理由について、「Power BIは追加のライセンスを購入することなく全社で使えます。コスト面が魅力です」と半田氏は語る。
なお、半田氏によると、Power BIのハンズオンを開催しているものの、ライトユーザーにとってダッシュボードの作成は難しいことから、必ずしもすべての社員がダッシュボードを作れるようにならなくても良いと考えているという。「各部門にダッシュボードを作れる人がいるようにするのが目標です」と同氏。
さらに、半田氏は「レポートを作れなくてもいいですが、自分が持っているデータやExcelですべてやるようなことはしてほしくないと思っています。必要なデータはデータカタログから探すという発想の転換を図り、Denodoのマスタデータを使うことを徹底したいです」とも話していた。
人事マスタを公開、「よく人事が許可したね」という意見も
取材時にちょうど完了した取り組みが人事マスタの公開だ。同社では、支店、各事業部門にそれぞれ管理部門があり、そこに所属している人たちが人事データを必要としているそうだ。
人事マスタのデータはOracle Databaseで管理されているため、これまではシステム部門に依頼してデータをもらっていた。しかし現在は、個人がODBCで接続して、データカタログから直接参照する。
人事と慎重に調整を重ね、氏名や所属・メールアドレスなど、項目を限定して公開している。それ以外の項目はこれまで通り、ワークフローで申請することで閲覧可能となる。
ここでは、Denodoによるアクセス権付与が貢献している。「Denodoはアクセス権の管理が容易であり、データのコピーを防ぐことができます。また、Denodoは1回アクセス権を付ければ、以降の作業は不要です。しかし、ワークフローは利用するたびに必要になります。中には、『毎月ワークフローで依頼するのが心苦しい』というユーザーもいます」と、半田氏はさまざまな側面からデータ提供に伴う手間が省けたと述べる。
また、ユーザーが自由にアクセスできれば、データを間違えても自分のタイミングで正しいデータを取得できるので、ユーザーの利便性も上がっている。既に社内電話帳で公開されている情報とは言え、人事データを公開したことについては「よく人事が許可したね」と話すユーザーもいたそうで「ドラスティックに仕組みを変えたと思っている」と、半田氏は胸を張っていた。