TSMCは6月4日、2024年度の年次株主総会を開催し、第16期取締役会メンバー10名を選出したほか、CC Wei(魏哲家)氏を新たな董事長(会長)兼CEOとして選出したことを発表した。これまで会長を務めていたMark Liu(劉徳音)氏は、取締役会終了後に退任する予定となっている。
TSMCは創業者のMorris Chang(張忠謀)氏が2018年に引退した後、前董事長の劉徳音氏と魏最高経営責任者(CEO)が2人3脚で経営する「2トップ体制」を敷いてきたが、今後は魏氏が董事長とCEOを兼ねて1人で最終判断をすることになる。魏新会長は取締役会後に記者会見を開催、、その模様を多くの台湾メディアが報じている。
最先端プロセス製造は台湾を最優先
メディアとのいくつかの質疑応答の中で、注目された1つに米中対立の激化を踏まえたものがある。米中間での衝突リスクを避けるために、顧客から半導体生産を米国(同社はアリゾナ州に工場の建設を進めている)に移すことを要望している可能性の有無に対し、魏会長は「そのような議論があったのは事実だが、TSMCの生産能力の80~90%は台湾にあり、すべてを移転することは不可能だ」と述べ、米中の軍事衝突を望んでいないことを表明。台湾海峡の両側の指導者が世界の指導者とともに軍事衝突を回避するための賢明な対応を行うことへの期待を示したほか、TSMCの生産能力拡大の場所として台湾を引き続き最優先していくことを強調した。
また、海外への拠点進出に関して、TSMC熊本第1工場(JASM)に触れ、現在までの進捗状況は順調であることを踏まえ、第2工場の建設を発表しており、年末までには建設を開始する予定であると述べた。日本での第3工場建設に関しては、すでに熊本県知事から要請を受けていることを認めたが、「まず熊本での足場を固め、地元の協力を得て第1、第2工場の稼働が軌道に乗せるのが先決だ。熊本での水資源などの問題を解決したうえで地元の賛同が得られれば、第3工場の建設に着手するかどうかを検討するかもしれない」と含みのある回答をした。
さらに、地政学的リスクが会長就任後の最大の課題になるのかどうかという質問に対して直接的には回答しなかったが、事態そのものについては楽観視しており、依然として台湾のTSMCの今後の発展に全幅の信頼を置いていると述べ、TSMCの将来の投資について、「第一の優先事項は台湾、第二の優先事項も台湾、そして第三の優先事項も台湾である」と強調したほか、「米国は2nmプロセスでの製造を計画しているようだが、TSMCの最先端プロセスはすべて間違いなく台湾で開始されるだろう」と述べており、台湾が今後も同社の中心にあるとた。
このほか、急拡大する人工知能(AI)向け需要に対して同氏は、今後ますます技術の普及が進むとの認識を示したうえで、「現状はAI半導体のすべてをTSMCが受託生産している」と述べ、世界市場における自社の技術の優位性を強調している。