LINE WORKS社は5月28日、年次ビジネスカンファレンス「LINE WORKS DAY 24」を開催した。本稿では法人向けビジネスチャットツール「LINE WORKS」を導入し、業務効率化を図った2社の事例講演の内容を取り上げる。
AIを活用した新製品の予定も発表 - LINE WORKS DAY 24 レポート(前編)はこちら
現場の声をきっかけに、導入を決めた大成建設
まず登壇したのは、大成建設 建設本部 生産技術イノベーション部 生産技術ソリューション推進室 室長の田中吉史氏だ。講演は、ネクストフィールド 取締役の科部元浩氏と、LINE WORKS社 マーケティング本部の谷ひかる氏がモデレーターを務めるかたちで進行された。
現在、建設業界で大きな課題となっているのは「2024年問題」である。時間外労働の上限規制が適用されたものの、実際の現場では、なかなかこれぞという打ち手が少ない。こうした現状を踏まえた上で、科部氏は「生産性向上・働き方改革の実現が必須」だと話す。
大手ゼネコンの一社である大成建設では、田中氏が所属する生産技術ソリューション推進室を中心に、現場の生産性向上のため、ICTツールの導入を進めている。LINE WORKSもその1つだ。導入の狙いを尋ねられた田中氏は日本建設業連合会が作成した「建設業界デジタル化の進化の道程」を参考にしたと語り、「デジタル化の最初のステップに“共有”がある。そこで、まずはデジタルコミュニケーションが必要だろうと考えた」と答えた。
では、数あるデジタルコミュニケーションツールの中からなぜ、LINE WORKSを選択したのか。そこには「現場の声」があったそうだ。
大成建設に入社して約30年になるという田中氏が入社したての頃にはもちろん、携帯電話はなかった。現場での情報伝達は場内放送やトランシーバーが主流だったという。2000年頃にはいわゆるガラケーが普及したが、現場で利用するような写真や図面を共有することはできなかった。時が経ち、15年ほど前にiPhoneが現場で使われ始め、写真や図面を送れるようになった頃から「現場が変わり始めた」と田中氏は振り返った。さらにこの10年で、現場では迅速な情報共有やリアルタイム性が求められるようになってきている。大成建設では、そのやり取りに多くの社員がLINEの個人アカウントを使っていたが、セキュリティ上の懸念や、公私混同になってしまうことなどが課題となっていた。
「普段のLINEでやっていることをそのまま現場でもやりたいという声を発端に、LINE WORKSの導入を決めました」(田中氏)
一番喜ばれたのは、落とし物探し!?
現在、大成建設では社員約8600名のほかに、協力会社などにもLINE WORKSのアカウントを発行しており、アカウント数は1万を超えているという。同社が請け負う現場の約2/3ほどでLINE WORKSを活用しており、大きな現場の場合、数百名規模でアカウントを発行することもある。現場ではコミュニケーションツールとしてだけでなく、タスク管理や作業の進捗管理などにもLINE WORKSが用いられる。
「現場で生産性を向上させるための行動ができ始めています」(田中氏)
LINE WORKSへの評価を問われた田中氏は、LINEと同様にスタンプやリアクション機能が使えるため、「気持ちが伝わり、ほっこりする」という声があることを紹介。さらに、「現場で一番喜ばれているのは、落とし物探し」だと明かした。広い現場で落とし物をした場合、探し回るのに数時間かかったり、わざわざ現場事務所に足を向けたものの、落とし物が届いておらず無駄足になったりということがしばしばあった。LINE WORKSであれば、現場事務所のスタッフが「落とし物があった」という案内を全員が閲覧できる「トークルーム」へ投稿するため、無駄な行動をしなくても良いというわけだ。
ドローンと連携したBCP訓練
加えて今、同社では、ドローンを扱う企業と防災協定を結び、BCP訓練にLINE WORKSを活用する取り組みを進めている。ドローンが撮影した現地の画像をLINE WORKSで共有することで、状況をリアルタイムで把握することが可能だ。この取り組みに科部氏は「平時と有事の両方に使える有効な手段」だと賛同した。
「情報共有のスピードと質の向上に、非常に効果を感じています。これが業務の効率化、時間の削減につながるのです。さらに、社内と社外の連携を強化していくことで、新たな価値を生み出していきたいと考えています」(田中氏)
“挑戦する企業”として航空宇宙産業にも進出する釧路製作所
続いて登壇したのは、金属製品の製造を主とする釧路製作所の代表取締役社長 羽刕洋氏と、同 品質保証室の新保美玖氏だ。モデレーターはLINE WORKS社 マーケティング本部の田中春奈氏が務めた。
釧路製作所は1956年に創業、釧路の主要産業であった石炭業を支える企業として、鋼製橋梁やタンクの設計・製作・施工などをメインに発展してきた。しかし、事業の中心である鋼製橋梁の規模縮小、少子高齢化、若者の製造業・建設業離れなどの環境や社会の変化に対応すべく、“挑戦する企業”をスローガンに、近年は航空宇宙産業にも力を入れているという。
「企業は、強いから大きいから生き残れるのではなく、変われるから生き残れるのだと考えています。変化には革命、革新、進化の3つがあります。革命はなかなかできませんが、新規事業にあたる『革新』と、既存事業の改良・改善にあたる『進化』はできるのです」(羽刕氏)
その“進化”を担うのが、新保氏が所属するDXチームだ。釧路製作所では2020年に社員約100名にスマートフォンを配布した。その際、全員の安否確認や緊急連絡を行うためのツールが必要になり、LINE WORKSを導入したという。「既読になったメンバーを確認できるので、緊急連絡にふさわしいと考えた」と羽刕氏は説明する。その後、社内のコミュニケーションツールとしての使用も広がり、“誰もが見るツール”として定着したところで、新保氏らは“ネクストステップ”として、LINE WORKSとサイボウズのノーコード・ローコードツール「kintone」を連携し、業務改善に取り組むことを決めた。
小さな1つ1つの改善を積み重ねる
1つ目の取り組みは、事務用品の在庫管理の改善だ。従来、担当者が保管場所まで出向いて在庫数を確認し、状況に応じて都度発注するスタイルだったため、定期的に確認する必要があり、無駄な時間が取られていた。そこでLINE WORKS上に作成した「消耗品持ち出し登録Bot」とkintoneのデータベースを連携し、在庫が一定数減少すると、LINE WORKSのトークに通知が送られる仕組みを整えた。
2つ目の取り組みは、アルコールチェックへの対応だ。アルコールチェックが義務化される際、当初はエクセルで管理する予定だったというが、データ量が膨大になることや、業務量が増加することなどを懸念し、アルコールチェッカーによる測定結果をBotに入力すると、その結果がkintoneで集計される仕組みとした。
3つ目の取り組みは、社員食堂の食券作成と精算業務の改善だ。従来、社員食堂で使う食券は総務担当が手作業でつくる紙ベースの券であり、1日に10数セットをつくるのが精いっぱいだったと新保氏は言う。また、社員側は工場からわざわざ事務所へ出向き、食券を購入する必要があった。そこでLINE WORKS上に「食堂Bot」をつくり、食堂の利用日にBotから予約をするかたちに変更。予約内容はkintoneに記録され、担当者はその内容を基に代金の精算を行うこととした。
これらの取り組みについて羽刕氏は「1つ1つは大きな問題だと感じないかもしれないが、 これらが積り積もっていく。本来の業務ではないものに時間をとられるのは良くない、そこは機械にやってもらえば良いと考えた」と話す。新保氏は、釧路製作所には18歳~70歳まで幅広い世代が勤務していることを挙げ、「多くの人が使えるよう、(Botの)質問数は短く、少なく。とにかくシンプルにすることを意識している」と述べた。
「今後新たに、工場で使用する鋼材や資材の管理をするための仕組みづくりに取り組む予定です。事務所でDXを推進し、その知見を持って、現場・工場のDXも進めていきます。(中略)“挑戦する企業”としてこれからも諦めず、できるまで挑戦をしていきます」(羽刕氏)