さまざまな医療技術が普及している日本。特に内視鏡については国際的に見ても圧倒的な普及率となっており、消化器内視鏡メーカーは日本企業が世界シェアの約9割を占める一方、日本消化器内視鏡学会の会員数も3万5000人を超えるなど、機器の製造と活用の両面で世界をリードしている。

裏を返せば、多くの国では内視鏡医療が普及していないともいえる。特にアフリカをはじめとする新興国では、経済成長が続く社会とは裏腹に、病院や医師、医療機器の整備が追い付いておらず、充分な医療が提供できていない地域も少なくない。

アフリカの中でも特に急速な経済成長を遂げているケニアでは、社会発展の影響によって国民の食生活や生活習慣が変容するのに伴い、健康課題も変化しているとのこと。糖尿病や循環器疾患などの「非感染性疾患」(NCDs)が死因となる割合が増加しており、特に消化器系のがんが罹患数および死亡数の上位となるなど、新たな社会課題として表出しているという。

こうした課題を受け、世界的内視鏡メーカーのオリンパスは、日本政府と連携した官民での取り組みとして、「ケニアにおける消化器疾患診療の人材育成支援(内視鏡領域)」を2023年7月より実施した。今回はその事業の一部として来日し、約1か月にわたる滞在で日本の内視鏡医療について学んだケニア人医師に話を伺いながら、医療現場の課題やオリンパスの取り組みがもたらす価値について迫る。

  • オリンパスがケニアの医師に研修プログラムを提供した

    オリンパスがケニアの医師に研修プログラムを提供した。その価値や医師たちに与えた影響に迫る(出所:オリンパス)

政府との連携でオリンパスが果たす役割

オリンパスは、企業経営におけるESG重点領域のひとつとして「医療機会の幅広い提供およびアウトカムの向上」を挙げる。がんの罹患者数が世界的に増加傾向にある中、内視鏡を活用した早期発見や低侵襲治療により、より多くの患者を救えるよう、内視鏡を安全に扱うことができる体制の整備をサポートしているとのこと。それらの取り組みは国内のみを対象にしたものではなく、世界各国を対象に、内視鏡の出張検査や現地医療従事者への内視鏡トレーニングなどを実施してきたという。

一方で日本政府としては、健康寿命社会の実現に向けた国際的な指針として「アジア健康構想」および「アフリカ健康構想」を推進している。衛生面が整備され充分な医療体制が整った社会の実現に向けて日本が貢献するため、アジアとアフリカそれぞれ6か国との間で覚書を締結しており、国家間で協力しながら安定した保健医療サービスの充実に取り組んでいるとする。

こうした背景からオリンパスは2023年、厚生労働省より委託され国立国際医療研究センターが主体として実施した「令和5年度医療技術等国際展開推進事業」に、ケニアを対象とした内視鏡医療の人材育成支援プロジェクトを応募。その事業案が採択され、ケニアでの内視鏡医療普及を目指した官民連携による取り組みが開始された。

九州大学病院とも連携した産官学の取り組み

今回の取り組みにおいて、オリンパスは主に育成プログラムのコーディネーションを担当。内視鏡に関する教育活動については、新興国医師向けの研修実績が豊富な九州大学(九大)病院 国際医療部が行った。具体的には、九大病院からケニアへと医師を派遣し技術研修を実施したといい、日本政府より内視鏡設備の供与を受けたケニア国内7病院から集まった13名の医師が研修を受講したとのこと。その後、5名のケニア人医師が日本へと派遣され、九大病院で約3週間にわたって内視鏡を用いた検査や治療の見学、および技術指導が行われたという。

今回来日した5名の医師は、さまざまな患者が訪れる中心的な病院で自ら現場に立つ傍ら、トレーナーとして研修医の育成にも携わっているとのこと。内視鏡技術を学ぶ1人の医師として、そしてケニアの医療の将来を担う立場として、日本での研修では何を感じたのだろうか。