【専門家に聞く!紅麴の背景と対策】九州大学農学研究院 清水邦義准教授「再発防止に向けメタボローム解析導入を提言」

九州大学農学研究院の清水邦義准教授は、天然物を原材料とした健康食品・機能性表示食品の研究に長く取り組んできた。清水准教授は、紅麹問題について「本質的には食中毒の問題であり、機能性表示食品の問題ではない」と話す。その上で、再発防止に向けた取り組みとして、成分の網羅的な解析であるメタボローム解析の導入を提言している。清水准教授に話を聞いた。

――機能性表示食品や健康食品、化粧品の研究を活発に行っているということだが、きっかけは?

私は生まれつき左耳が聞こえない。今ある左耳も、太ももの肉やわき腹の骨を移植し形成したものだ。原因について、明確ではないが、合成医薬品等の副作用の可能性も否めないと考えている。こうした経緯もあり、私は、キノコや樹木といった、自然でかつ、安心・安全なものを研究テーマにしてきた。機能性を持つ自然素材による、化粧品や健康食品、機能性表示食品、育毛剤など、人々の役に立つものの研究を中心に行っている。木の家や畳が人に与える影響の研究も行っている。食品成分について、私の研究チームでは、成分分析から、抽出・成分単離・構造解析、インビトロの機能性評価、ヒト臨床試験までを全て実施している。そのため、機能性表示食品のSR(研究レビュー)に必要なデータ獲得について、一貫して行うことができる。

――紅麹問題をきっかけに、機能性表示食品が批判されているが、どう考えるか?

紅麹問題は早く言えば食中毒の問題ではないだろうか。機能性表示食品だから、あるいは健康食品だから起こった問題ではないだろう。逆に言えば食品全般で起こりうる問題ともいえる。

――同様の問題が起こらないようにするための積極的な提言などがあれば聞きたい。

現行の機能性表示食品制度に足りない点があるとすれば、それは、定性的な分析も求められているが、「機能性関与成分がどれだけ入っているか」という点にフォーカスしすぎていることだろう。天然物の安定性はさまざま。変異・変化をすることもある。ロットごとに調べたとしても1つの関与成分の量だけ見ていたのでは、さまざまな変異・変化を見落としてしまう。

――どうすれば良いか?

機能性を持つ原材料について、ロットごとに成分の網羅的解析技術であるメタボローム解析を行うことを提案したい。メタボローム解析では生体の代謝物全体を網羅的に解析できる。多様なピークを持つ波形として読み取ることが可能だ。この波の形が同じであれば、同じものだと判断できる。指紋のようなものだ。一方、普段にはないピークが出てくれば、何らかの変異・変化、コンタミ(異物の混入)などが疑われる。今回の紅麹問題も、メタボローム解析をロットごとに行っていれば、未然に防げた可能性はあろう。

例えば合成医薬品ならば関与成分量のみに着目することは効果的だ。しかし、天然物には、天然物に適した解析を取り入れる必要があるだろう。

――メタボローム解析にはどの程度の費用がかかるのか?

解析を行って波形を見るだけならば数万円程度ではないか。今後この分野においてもメタボローム解析が広がってくれば、

単価が安くなっていく可能性もあろう。検出されたピークを構成する物質の種類をすべて特定しようとすると、高額が必要になるが、そこまでする必要はない。波の形が許容範囲内であるかを調べるだけで十分だと考えている。

メタボローム解析と、現行の有効成分の定量を組み合わせて行っていくことが有効だ。

――原材料GMPを導入するべきだとの意見も聞かれるが。

そこまでする必要はないだろう。繰り返しになるが、天然物には天然物に適した方法で考えなければならない。もし医薬品レベルのGMPを自然素材に導入するならば、発酵食品など本当に有益な自然のものの中で、安価に利用できなくなるものが出てきてしまう。自然の原材料を有効に活用していく方策を見出す必要がある。コストや労力など業界が活用しやすいシステムを構築するとともに、消費者の安心・安全を確保できる制度が望ましい。健康維持の選択肢が医薬品しかないということは避けたい。メタボローム解析や機能性の解明などにより情報をオープンにし、人々に選択肢を提供していくべきだろう。

自然の素材は、空気中の二酸化炭素が光合成により固定化したものであると捉えることができ、それを活用することは、脱炭素と言う意味でSDGsにも貢献する。そうした意味でも、古くからある天然素材を改めて見直していく必要があるだろう。人間の健康のみならず、地球の健康をも勘案して積極的に活用する方法を模索していく。そのような視点も忘れてはならない。