【専門家に聞く!紅麴の背景と対策】大阪大学大学院 森下竜一 寄附講座教授「機能性表示食品の問題ではない 医師や薬剤師に自主的に相談する体制を」

3月に発生した小林製薬の「紅麹問題」と、それに伴う機能性表示食品制度の見直しの議論について、特定非営利活動法人日本抗加齢協会の副理事長で、制度創設時お規制改革会議で委員を務めたことでも知られる、大阪大学大学院 医学系研究科・臨床遺伝子治療学の森下竜一 寄附講座教授は、「今回はあくまで小林製薬の製造工程で発生した問題であり、機能性表示食品制度の問題ではない。ただ、食品全般で発生する可能性のある問題でもある」と指摘する。「制度の見直しで実効性のある規定をどのように担保するかも問題だ。事業者は、健康被害があった場合、医師や薬剤師に自主的に相談できる 体制を構築しておくべきだ」とも話している。

<”機能性”の問題ではない>

――今回の「紅麹問題」について、どのように考えているか?

今回はあくまでも、小林製薬の製造過程の問題であって、機能性表示食品制度の問題ではないことは間違いない。

現行の機能性表示食品制度では、届け出事業者が健康被害情報を収集し、「症状、重篤度、因果関係の健康被害の評価」を行ったうえで、「届け出食品による健康被害発生及び拡大のおそれ」があるとき、消費者庁へ報告するということが、ガイドラインで規定されている。制度創設時には、集中的に議論し、ほとんど義務化されている。

今回は、機能性表示食品だったからこそ、被害の報告がされて、うまく機能したと考えている。いわゆる健康食品で健康被害が発生していれば、報告の義務もなく、被害の発覚が遅れていたかもしれない。

「紅麹問題」がなぜ発生したかについては、予測の範疇(はんちゅう)を出ないが、報道によると、青カビの成分が混入したことで発生したのは間違いなさそうだ。発生している症例の多くは、「ファンコー二症候群」と言われている。

「ファンコー二症候群」は、今回の製品の原料である「紅麹」の問題ではない。「紅麹」が産生する機能性関与成分「モナコリンK」の問題でもないことが分かっている。機能性関与成分の過剰摂取が問題ではないと思われる。

確認された「プベルル酸」に毒性があるかもまだ分かっていない。ただ、紅麹を生成する発酵期間が、50~60日と長いものだったことから、何らかの成分が生成しやすい状況だったのではないかとも思われる。

消費者庁への健康被害の報告について、もっと早期に行うことが望ましかったのではないかと考えている。

<出荷時のチェック体制を>

――現在、消費者庁では、機能性表示食品の見直しに関する議論が行われている。どのような制度の整備が必要か?

まず、実効性がある制度を作るのが大前提だ。どのような健康被害の情報を、どのように報告し、消費者庁がどのように干渉して行くかについて、明確化すべきだと考える。規制の導入は難しいかもしれないが、ガイドラインなどに盛り込んで、事業者が自主的に判断できるような仕組みを作るべきではないか。

私は、各事業者が、出荷時に品質をチェックする工程が必要だと考えている。

GMPを義務化することも議論されているが、米国と異なり、日本ではGMPは民間が認証しているため、義務化するのが難しいと考えている。原料の製造にGMPを盛り込むという案も、今回の紅麹に原料のGMPを適用していれば防げていたかは不明だ。

事業者が出荷時に品質のチェックを行い、安全性の担保を行った方がいい。そのうえで、健康被害が発生した場合の対応のフローを、事業者単位で構築したほうがいいと考えている。

例えば、事業者に健康被害の報告があった場合に、医師や薬剤師に早期に相談できる体制を整えた方がいい。健康被害があった際に、顧客が相談しやすいよう、お客さまセンターを備えておくことも必要だ。

報道によれば、健康被害があった場合に、事業者から全数報告を求めるように見直す案もあるが、全数報告を規定した場合、保健所のような実行期間を持たない消費者庁が対応できなくなる。さらに、「トクホについてはどうなるか」といった議論も必要だろう。

今回のような想定しないものが入ってしまった場合、どうするのかということを議論すべきだ。