武蔵野大学と帝京大学は4月16日、水虫の治療薬「テルビナフィン」に耐性を示す白癬菌に有効な手段を探索した結果、その自然耐性に関与するタンパク質「TrPtk2」を同定し、プロトンタンパク質阻害剤である胃酸抑制薬「オメプラゾール」をテルビナフィンと併用することで、テルビナフィンの作用を増強できることを確認したと共同で発表した。
同成果は、武蔵野大 薬学部薬学科の大畑慎也准教授、同・石井雅樹講師、帝京大 医真菌研究センターの山田剛准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国微生物学会が刊行する抗菌剤と化学療法に関する全般を扱う学術誌「Antimicrobial Agents and Chemotherapy」に掲載された。
白癬(はくせん)は国民病の一種とされ、日本皮膚科学会の「皮膚真菌症診療ガイドライン 2019」によれば、日本人の足白癬(水虫)の罹患率は21.6%と推計されている。総務省によれば、日本の総人口は2024年3月時点の概算値で1億2397万人であるため、およそ2600万人が水虫に罹患していると推測されることになる。
水虫の原因である白癬菌は、カビなどと同じ真菌の仲間であり、真菌による感染症治療薬はその種類が限定されているという。真菌の増殖に必要な細胞膜成分である「エルゴステロール」の生成を阻害することで真菌の増殖を抑える、抗真菌薬が主に用いられている。その中でも費用対効果が高いことから、世界的に使用されている治療薬がテルビナフィンである。
しかし、白癬菌に関しても薬剤耐性菌が問題になっている。近年、テルビナフィンに耐性を示す真菌が確認され、日本国内においてもテルビナフィン耐性白癬菌の報告が続いている。耐性菌のさらなる蔓延に対応するため、新たな治療法の開発が求められていたことから、研究チームは今回、遺伝子組換え技術を用いてその実現を求めることにしたという。
今回の研究では、白癬菌に対して遺伝子組換え技術が使用され、機能が未解明のタンパク質であるTrPtk2を欠損させた白癬菌の変異株が作出された。すると、野生株と比べ、TrPtk2欠損株ではテルビナフィンを加えた培地における菌の成長が抑制される状態(感受性)になることが判明したとする。
白癬菌以外の真菌も感染症を引き起こして臨床上の問題となることから、白癬菌以外の真菌のTrPtk2である「Ptk2」が、ほかの真菌種においてもテルビナフィンの自然耐性に関与するのかどうか、一般的に実験室で用いられている真菌の一種である「出芽酵母」を用いて調べられた。すると、同菌においてもPtk2を欠損すると、テルビナフィンの抗菌活性が上昇することが見出されたとした。
これらのことから、Ptk2が種を超えてテルビナフィンに対する自然耐性を付与することが示唆され、感染症を引き起こすさまざまな真菌に対する抗真菌薬を探索する上で有力な標的候補であることが確認された。
Ptk2は、細胞膜上のタンパク質であるプロトンポンプ「Pma1」を活性化することが知られている。プロトンポンプとは、細胞内のエネルギーを利用して、プロトン(陽子=水素イオン)を細胞外に汲み出すタンパク質。人間の胃でも酸性になるよう活用されているが、病原性真菌にとっても生きるために必要なタンパク質である。
研究チームは、白癬菌のTrPtk2もPma1を活性化し、テルビナフィン耐性をもたらすのではないかと考察。プロトンポンプ阻害剤として知られる、胃酸抑制薬オメプラゾールを作用させた際のテルビナフィン感受性が調べられた。その結果、テルビナフィン耐性白癬菌においてテルビナフィンに部分的な感受性を示すことが明らかにされた。
今回の研究成果により、白癬菌TrPtk2-TrPma1経路が、近年報告が増加しているテルビナフィン耐性白癬菌に対する新たな治療標的となり、新規医薬品の発見につながるものと期待されるとしている。