NTT東日本はこのほど、自治体関係者に限定したイベント「自治体業務 DXのホンネ」を開催した。同イベントで、長野県 企画振興部DX推進課 主事 南澤達哉氏が、同県と市町村による電子契約共同導入について講演を行ったので、その模様をお届けしよう。
今年3月時点で、長野県を含む10の団体が電子契約を導入しており、来年度は21年度まで増える見込みだという。
電子契約を導入するにあたり、長野県ではどのような苦労があり、また、共同導入によってどのようなメリットを得られるのだろうか。
県を挙げて進めるデジタル・最先端技術の活用
長野県は2023年5月、長野県総合5か年計画『しあわせ信州創造プラン3.0 ~大変革への挑戦 「ゆたかな社会」を実現するために~』を策定した。
同計画では、8つの新時代創造プロジェクトを掲げており、その一つに、「デジタル・最先端技術活用推進プロジェクト」がある。
同プロジェクトでは、県内の全産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のため、県内のIT企業と連携し、企業のニーズの掘り起こしから技術導入まで一貫して伴走支援する体制を整備している。電子契約導入もこうした活動の一環となる。
3つの自治体で電子契約の合同実証実験
長野県で電子契約を導入するきっかけとなったのは、市町村からの提案だったという。同県では、行政事務への先端技術の導入推進を目的として「長野県先端技術活用推進協議会 自治体DX推進WG」を設置している。同協議会には全市町村が参加しているということで、各市町村の意見をくみ取りやすい組織と言える。
「自治体DX推進WG」で興味があるテーマについてアンケートをとったところ、電子契約という回答があったことから、電子契約の導入が検討されることになった。
電子契約を導入するにあたっては、2021年から実証を行い、2022年上期に規程類の整備や運用フローの検討に取り組み、同年11月より導入を開始した。
電子契約の合同実証実験は、長野県・佐久市・塩尻市の3つの自治体と弁護士ドットコムで行われた。
南澤氏は、実証の目的の一つに「電子決済サービスの当事者型と立会人型を比較すること」があると述べ、実際、2つのサービスを同時に実証したそうだ。同氏は、実証結果について、次のように語った。
「実証は自治体より民間企業にメリットを感じてもらいました。自治体からは『UIがシンプルでわかりやすい』、民間企業からは『印刷、押印、製本、提出の時間を削減できる』といったプラスの意見をもらいました。一方、マイナスの意見は『今のフローやルールでは厳しい』ということが両者に共通しており、この辺りをクリアにしなければならないとわかりました」
こうした状況を踏まえ、長野県が先行して電子決済サービスを単独で導入することになった。
職員説明会後に殺到した問い合わせ対応に一苦労
長野県庁では、南澤氏が所属する企画振興部DX推進課、会計局契約・検査課、建設部建設制作課技術管理室がタッグを組み、部局を横断してプロジェクトを推進した。契約全体で建設工事の契約が多くを占めていることから、建設部からもメンバーを招集したそうだ。「慣れないことも多かったと思いますが、自分事としてとらえて活動してもらいました」と、南澤氏は語った。
実証実験において明らかになったルールの不備を解消するため、財務規則や公文署管理規定などを改正するとともに、「電子契約に係る事務処理要領」「電子契約に係るQ&A」「電子契約管理簿」といった規定を新たに制定した。
ちなみに、電子契約サービスを使うフローはインターネットで公開されている。
南澤氏は、「民間と自治体において、契約日入力の有無や確定の時期が異なる点では苦労しました」と話していた。長野県庁では、相手方に送付する前に必ず承認者による確認・承認を必須にしているという。
そして、環境が整備されたのち、職員説明会を開催し、アーカイブデータを公開し、問い合わせフォームを設置した。南澤氏によると、先に導入した自治体からは「質問はあまりなく、ハレーションもなかった」と聞いていたので、のんびり構えていたところ、説明会後1カ月で約100件の問い合わせがあり、その対応に追われたそうだ。「思い返すと、職員説明会後の対応が一番きつかったです」と、同氏は語っていた。
2024年度は21団体が共同導入に参加
2022年11月に導入が始まり、大きなトラブルが起こることなく、現在に至っている。2024年3月時点で、累計6000件が電子契約で処理されており、利用率は50%に達しているとのことだ。
こうした中、NTT東日本から長野県市長村自治振興組合による共同導入の提案を受けた。共同導入においては、NTT東日本と同組合が契約を結び、県・市町村は同組合に負担金を払う。NTT東日本は県・市町村のサービス導入やサポートを行う。
2024年3月時点で、県を含む10団体が共同導入に参加しており、2024年度は21団体まで増える見込みだ。
南澤氏は、複数の自治体による共同導入のメリットとして「コスト削減」「事務の効率化」「ノウハウの共有」を挙げた。
アカウントのボリュームディスカウントにより、構築と運用にかかるコストが単独で導入するよりも抑えられる。なかでも、事務の効率化のメリットが大きく、「参加表明をすれば、負担金を払うだけでよく、調達業務を行う必要がありません」と同氏。
今後の展望として、2024年度にLGWAN環境での利用に変更する予定だ。電子署名の有効性を維持したまま、LGWAN環境でのシステム連携が可能になるため、電子署名が破損することがなくなるという。
契約の電子化のメリットはわかっていても、コストや手間がかかることから、導入に踏み切れない自治体もあるだろう。そうした自治体にとって、共同導入は解決の一手となるのではないだろうか。