国立科学博物館(科博)は3月28日、神奈川県川崎市の民家の水槽から発生したマリモ類が、山梨県甲府の民家で見つかったものに次いで国内で2例目の報告となる「モトスマリモ」(Aegagropilopsis clavuligera:アエガロピロプシス・クラブリゲラ)であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、科博 植物研究部 菌類・藻類研究グループの辻彰洋研究主幹らの研究チームによるもの。
マリモは、アオミソウ科に属する緑藻類(植物)が、水中で生活する際に集合して球状となったもののことをいう。かつては世界でもこうした球状の緑藻類は見られたそうだが、現在ではほぼ北海道・阿寒湖でしか見られない。日本国内では、これまでマリモの仲間としては、富山県の「タテヤママリモ」と、2022年に個人宅の水槽で発見された国内3例目となる「モトスマリモ」が確認されている(山中湖でかつて「フジマリモ」が発見されたが、現在標本が行方不明となっており、マリモかタテヤママリモの可能性が考えられている)。
富士五湖の1つである山中湖は、阿寒湖以外でマリモが棲息している数少ない湖(タテヤママリモも確認されている)。科博では、2011年から同湖のマリモ類の研究を行っており、山中湖村教育委員会と共同で2度の学術調査も行われている。そして2022年に、甲府の民家の水槽からマリモが見つかったと連絡があり、調査の結果、日本新産のAegagropilopsis clavuligeraであることを解明し、モトスマリモと同定した。
2023年からは、このモトスマリモの由来を解明するため、富士五湖の本栖湖・西湖・山中湖での潜水調査をスタート。しかし、これまでのところモトスマリモを発見できていなかったという。ところが今回、川崎市の個人宅の水槽からマリモ状のものが発生していると科博に連絡が入り、調査を進めたところ、日本で2例目のモトスマリモの出現例と判明したとする。
今回見つかったモトスマリモは、熱帯魚の「コリドラス」を飼育していた水槽に発生した。このモトスマリモ以外の生物はペットショップから購入されたもので一般的に流通している生物である。飼育者によると、約3年前に多摩川の河川敷から石を拾い水槽に入れたところ、マリモ状の藻類が石の上にモコモコと発生してきたとし、この状況から、多摩川の石にモトスマリモが付着していた可能性が高いと考えているとした。また、2022年の1例目の甲府の個人宅の水槽で発見されたものとは、顕微鏡下での形態や遺伝子が異なることから、由来は別で直接的な関係はないことが考えられるとしている。
モトスマリモを含むAegagropilopsis属は、阿寒湖のマリモを含む近縁のAegagropila属とは異なり、飼育環境下で多く見られることが特徴だ。有名なタテヤママリモ(Aegagropilopsis moravica)は、富山県立山町の個人宅の庭に人工的に作った池から発生したことがわかっている。またモトスマリモは、上述したように1例目は個人宅の水槽で発見され、2例目となる今回も家庭の観賞用の飼育水槽で発生している。また、外国でもモトスマリモはオランダの熱帯水族館の人工環境下で発生している。これらの種類は人工環境下で増えやすい特徴を持っていることが推定されるとし、自然環境下では丸くならず石面上に糸状藻類として生育しているため、見過ごされているのかもしれないとした。
また、今回を含むモトスマリモの2例目の発見は、いずれも科博が実施するマリモ研究に関わる報道がきっかけとなって発見されたとする。今回の発見が報道されることで、日本国内でさらなる発見につながる可能性があり、それが期待されるという。また、発見例が増えることで、同マリモの由来や分布がわかってくるものと考えているとした。
一方、自然環境下でのモトスマリモの存在を明らかにすることが、その由来を考える上で貴重と考えられることから、現時点では、発見に至っていない。今回の発見により、捜索範囲として多摩川水系も加え、発見に努めたいと考えているとした。