Adobeは3月26日、米ラスベガスで年次イベント「Adobe Summit 2024」を開催した。初日の基調講演では、AI主導のエンドツーエンドのマーケティング支援製品「Adobe GenStudio」生成AIモデル「Firefly Services」の最新機能、「Adobe Experience Platform AI Assistant」などを発表した。

スーパーボウルを支えたAdobeのCX製品

基調講演のステージに立った、Adobe プレジデント兼CEOのShantanu Narayen氏は「デジタル体験を通じて世界を変えるというAdobeのミッションは、かつてないほど重要になっている」と述べる。

  • Adobe プレジデント兼CEOのShantanu Narayen氏

    Adobe プレジデント兼CEOのShantanu Narayen氏

続けて、同氏は「AIの活用により、過去にないレベルのパーソナライズを、すべてのデジタル体験で、圧倒的なスケールを持って実現できる。マーケティングに携わるすべての人を、場所に関係なくエンパワーし、デジタル体験の想像、創造、配信を可能にしていく」と力を込めた。

AdobeのCXM(Customer Experience Management:顧客体験管理)戦略の中心はデータの洞察とオーディエンス、コンテンツ/コマース/ワークフロー、カスタマージャーニーの3つのカテゴリでさまざまな製品を提供する「Adobe Experience Cloud」だ。

Adobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデントを務めるAnil Chakravarthy氏は「デジタルマーケティングと顧客体験管理向けに、それぞれの分野で最高級のアプリを統合している。デジタル体験プラットフォームでナンバー1だ」と胸を張る。

  • Adobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデント Anil Chakravarthy氏

    Adobe デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデント Anil Chakravarthy氏

Adobeによると、Experience Cloudの顧客は1万1000以上、Fortune100の87%がExperience Cloudを利用しているという。

Adobeは2019年、共通基盤「Adobe Experience Platform」を導入した。これらアプリケーションが共通して利用するための顧客プロフィールの統合、そしてリアルタイム体験の提供を目的としたものだ。

ネイティブアプリとしてデータの洞察とオーディエンスのカテゴリに入るリアルタイムの顧客データプラットフォーム「Adobe Real-time CDP」と、カスタマージャーニー分析の「Adobe Customer Journey Analytics」、カスタマージャーニーのカテゴリに入る「Journey Orchestration」の3つがある。Adobe Experience Platformは、AIと機械学習が組み込まれている点も重要な特徴となる。

  • Adobeのポートフォリオ

    Adobeのポートフォリオ

「典型的な応答時間は100ミリ秒以下で、毎日約17兆件のファーストパーティセグメント評価、50億件のエッジでのやり取りを処理している」とChakravarthy氏、500以上のプラットフォームパートナーと統合しているとオープン性も強調した。

AdobeのExperience Platformのパフォーマンスを示す最新の例が、2月に開催されたスーパーボウルだ。世界最大のスポーツイベントと言われるが、今年は特にTaylor Swift(テイラー・スウィフト)氏の影響もあり、米国では関心が薄い層と考えられていた若い女性の関心が高まったとも言われている。

Chakravarthy氏は、スーパーボウルでAdobe Analyticsは41億件のヒットを処理したと報告する。同氏は「ピーク時は毎時約5億件、これは前年比80%以上の増加となる。同時メディアストリームは1050万件、ページビューは18億件、ダイナミックな動画や画像などのマルチメディア体験は28億件だ」という。

それだけでなく、クロスチャネルキャンペーンを管理できる「Journey Optimizer」と、顧客データをもとに顧客のニーズに応じた動的なキャンペーンを構築・調整し、電子メールやモバイル、オフラインのチャネルなどを通じて提供する「Adobe Campaign」が配信した電子メールは、2月だけで9億9800万通にのぼるという。

Adobeのデータも紹介する。adobe.comは94カ国で展開しており、四半期のページビューは45億件。Adobeが抱える顧客と見込み客のプロファイルは18億件に及ぶという。

Chakravarthy氏は「AdobeはExperience Cloud上で世界最大級のデジタルビジネスを運営している」と話す。それを支えるために、データ主導のオペレーションモデルとして「D-DOM(Data Driven Operating Model)」を開発。

予想通りに機能していない場合は、その根本原因は何かなどをリアルタイムで把握できるようにしているという。Experience Platformを使って顧客に関する単一のビューを得ることで「それぞれの顧客の履歴、コンテキスト、センチメントを統合したプロファイルを作成し、それに基づいた行動を推奨してオファーを提供できる」と述べている。

このように、Experience Platformと各アプリケーションを組み合わせることで、大規模なパーソナライゼーションを可能にしているというわけだ。

注目のGenStudio、そしてFireflyを強化

また、Adobe Summitでは数々の製品発表があった。注目はGenStudioだろう。マーケティング担当者がキャンペーンのプランニング、作成、管理、アクティベートと一連のサイクルに必要な作業を、生成AI主導で行うためのツールとなる。

具体的には、ワークフロー&プランニング、生成とプロダクション、資産管理、デリバリーとアクティベーション、レポートと洞察、と5つの作業分野を包括しており、それぞれで生成AIを利用することで数週間~数カ月かかる作業を短縮できるという。

  • GenStudioで実現するサイクル

    GenStudioで実現するサイクル

デモではコカ・コーラの協力で、同社のマーケターとして限定フレーバーをプロモーションするキャンペーンの一部として、Facebook向けの広告を作成した。メタデータ検索によりアセットを探したり、属性のパフォーマンスから最適なものを選んだりできる。

  • GenStudioのイメージ

    GenStudioのイメージ

最終的に、FireflyのCustom Model機能を使い、プロンプトに「Surreal cloud pompom dreamworld」と入力すると、ブランドのガイドラインに沿った画像を生成した。ガイドラインに沿っていない画像は、警告が出た。GenStudioは9月に提供開始を予定している。

  • FireflyのCustom Model機能でプロンプトに「Surreal cloud pompom dreamworld」と入力

    FireflyのCustom Model機能でプロンプトに「Surreal cloud pompom dreamworld」と入力

  • Eメールやインスタグラムなどチャネルごとに画像を生成した

    Eメールやインスタグラムなどチャネルごとに画像を生成した

クリエイティブ生成AIのFireflyもアップデートがあった。Fireflyは2023年のSummitで発表した。

Narayen氏は「市場の反応は良かった。使い慣れているワークフローに統合することでAIのマジックと価値をさらに大きくできると考え、Creative Cloud、Document Cloud、Experience Cloudに統合したところ、65億以上のクリエイティブが生成された」と強調する。

同氏はFireflyの重要な特徴として「パブリックドメインにあるライセンスされたコンテンツのみでトレーニングされている。サードパーティの知的所有権を侵害することのない、商用的に安全なソリューションだ」と強調した。

企業がFireflyを活用する事例も出てきている。Adobeでデジタルメディア事業部門代表のDavid Wadhwani氏によると、IBMのコンサルティング部門はマーケティングでFireflyを利用することで、クリエイティブ関連の生産性を10倍にし、市場に投入する時間を60%高速化したという。それだけではない。同氏は「Fireflyを使った最新のキャンペーンでは、顧客とソーシャルのエンゲージが26倍になった」という。

今年のSummitでは、20以上のAPI、サービス、ツールなどを利用して、パーソナライズやアセットの生成などを効率化できるFirefly Servicesを発表した。

また、自社のデータ、スタイル、製品、キャンペーンなどでトレーニングすることでブランド戦略に沿ったクリエイティブを生成できる「Custom Models」、既存の画像の構成を使って新しい画像を生成する「Structure Reference」も発表した。

Microsoftとの提携も発表

そして、Microsoftとの提携も発表した。AdobeのExperience CloudとMicrosoftの「Microsoft Copilot for Microsoft 365」を接続するものだ。

Chakravarthy氏は「2社の生成AIへの投資を活用できる。Adobeだけでなく『Microsoft Dynamics 365』からもインサイトやワークフローを取り込み、『Ouotlook』『Microsoft Teams』『Word』などを使って、マーケティングの概要、コンテンツ、社内レポートを作成できる。これまで複数のツールを使う必要があったが、その必要がなくなる」と述べている。

このほかにも、会期中に自然言語を用いたタスクの自動化や、結果をシミュレーションするなどの操作ができる「Adobe Experience Platform AI Assistant」、Journey OptimzerのB2Bエディションといった新機能や機能強化も発表。このように生成AIが中心となったが、Narayen氏はCXMが再び大きな変化を迎えているとして、以下のように基調講演を結んだ。

「AdobeのCXMの取り組みは2009年に始まった。コンテンツ、データ、ジャーニーにまたがる単一のマーケティングスタックを構築し、マーケティングのアートとサイエンスを融合させるというビジョンを持って進めてきた、モバイル、クラウドなどの新しい技術の波が押し寄せ、Adobeはクリエイティブとデジタルメディア、両方のアプリケーションをクラウドベースのWebアナリティクスと組み合わせることで、ユーザーの想像力、アイディアの具現化を支援している。AIの時代においてCXMは再び変革を遂げようとしている」(Narayen氏)