NTTとオリンパスは3月27日、内視鏡の映像処理機能をクラウド上で実現するクラウド内視鏡システムの実証実験を共同で開始したことを発表した。
内視鏡技術は年々進化を遂げ、近年は内視鏡撮影映像から病変の恐れがある部位を術者に提示するなどといった高度な支援機能を備えるまでに至っている。しかし、現在の内視鏡は、すべての機能を内視鏡内で処理していることから、性能向上の限界やメンテナンスの複雑化などが課題となってきているという。また、リアルタイムによる遠隔診断や治療といった新たなニーズも登場しつつあり、柔軟な機能改善ならびにアップデートが求められることが予想されることから、映像処理など処理負荷の高い一部の機能をクラウド上のGPUなどに分担させることで、そうした機能のソフトウェアアップデートの容易化や複数病院間での映像情報の共有容易化などを可能とする「内視鏡のクラウド化」が議論されるようになってきているが、その実現にはいくつかの課題が残されているとする。
具体的には、既存システムのクラウド上への移行のほか「映像処理を遠隔地のクラウド上で実施する際、操作者へ映像処理の遅延による違和感を与えないよう、内視鏡とクラウド間で遅延を発生させない高速低遅延のネットワークを実現すること」、「ネットワークに障害が発生しクラウドが利用不可となった場合、異常を速やかに検知し、最低限の機能を内視鏡側で提供する(フォールバック機能)など、医療機器である内視鏡が求められる高い可用性を実現すること」、「情報を安全かつ正確に伝送するため、データ転送の経路上において量子コンピュータでも解読されにくい高度なセキュリティ対策を講じること」といったネットワーク面での技術課題があるという。
今回の共同実証は、NTTのIOWN APN技術を活用することで、実際の内視鏡とGPUサーバをIOWN APNで接続した実験環境を構築。以下の3つの検証を行っていくことを予定している。
- 高速低遅延を実現する光伝送パスで内視鏡とクラウドを模擬したサーバを接続することで、クラウド化に伴う処理の遅延が発生しないことの検証
- ネットワーク障害時におけるフォールバックなどをふくめ、医療機器に求められる高い信頼性、可用性をシステム全体として実現できることの検証
- 量子計算機でも攻撃が困難なセキュア光トランスポートネットワーク技術を用いて内視鏡とクラウド間を暗号化することで、情報のセキュリティが確保できることの検証
なお、両社では、この実験を終了した後、実証で得られた知見をもとに、クラウド内視鏡システムのビジネス化に向けた検討を共同で進めていくとしている。また、NTTでは医療機器をクラウド化する際の諸技術課題を解決する、医療機器向けネットワークのリファレンスモデルを確立させることを目指すとする一方、オリンパスでは、今回の結果を応用し、IOWNの技術を活用した顧客ニーズまたは課題解決に資する先進的なクラウド内視鏡システムなどの技術検討を継続して取り組んでいくとしている。