明治はこのほど、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が提供する「AWS Mainframe Modernization」を活用して、メインフレーム上のアプリケーションのモダナイゼーションとAWSへの移行を開始したと発表した。
「AWS Mainframe Modernization」は、メインフレームアプリケーションをモダナイズ・移行・テスト・実行するためのインフラストラクチャとソフトウェアを提供するサービス。
明治の取り組みは、国内における初の「AWS Mainframe Modernization」の事例となる。
「AWS Mainframe Modernization」の概要
アマゾンウェブサービスジャパ サービス&テクノロジー事業統括本部技術本部長の小林正人氏は、「国内企業において、WindowsやLinuxの移行はめどが立ってきたことから、最近は『メインフレームの移行をどうしようか』という相談を受ける機会が増えている」と語った。
このメインフレームの移行に対し、同社が提供している解決策の一つが「AWS Mainframe Modernization」だ。同サービスは「Assessment(評価)」「Mobilize(移行準備)」「Migrate & Modernize」という3つのフェーズで、メインフレームの移行を支援する。
具体的には、「リファクタリング」と「リプラットフォーム」を柱とし、データレプリケーションとファイル転送を提供する。リファクタリングはAWS Blu Ageが中心となっている。
メインフレームが抱えていた2つの課題
明治 執行役員 デジタル推進本部 本部長 古賀猛文氏は、同社では30年以上メインフレームを活用しており、レガシーシステムのオープン化を進めてきたが、メインフレームは課題を抱えていたと説明した。
同社は、2000年代からレガシーシステムのWebアプリケーション化、明治乳業と明治製菓のレガシーシステムの統合、クラウドサービスの導入などを進めてきたが、社内システムの約14%がメインフレームに残っていた。この約14%のレガシーシステムの運用のために年間数億円のコストがかかっていたという。
さらに、レガシーシステムの運用のアウトソーシング契約は5年で、次回の更新が2025年4月に迫っていた。
経済産業省が「DXレポート」で、日本企業の旧態依然とシステムの危機を「25年の崖」と定義して警鐘を鳴らしたが、古賀氏は「当社のレガシーシステムはまさに『2025年の崖』に当てはまる状況だった。現在はCOBOLがわかる人材がいるが、外部に依頼したくても難しくなってきている」と語った。
このように、同社はメインフレームの利用において、コストの増大と人材にまつわるリスクを抱えていた。
メインフレームのモダナイゼーションの方針
そこで、業務アプリケーションの棚卸しを行い、メインフレームで稼働する基幹システムの全体像を確認した結果、アプリケーションを3つのカテゴリーに分類し、移行の方針を決定した。
- ビジネスのトレンドや変化に迅速に追随可能なように変革するアプリケーション群
- 基幹システムなど非競争領域にあり、再構築を行うアプリケーション群
- 現時点でビジネスモデルに大きな変更がなく現行維持するアプリケーション群
上記のカテゴリーのうち、「現時点でビジネスモデルに大きな変更がなく現行維持するアプリケーション群」について、メインフレームのロジックを維持しつつ、基盤のみを汎用機からAWS環境に移行し、クラウドでのモダナイゼーションを進めることを決定した。
さらに、モダナイゼーションの方針を2分したという。「販売系基幹 システム」は新たに再構築し、それ以外のシステムは既存の資産を変換することにした。
レガシー言語のコードをJavaに自動変換
同社は2022年9月に「AWS Mainframe Modernization」の検証を開始、他社比較検討もしたうえで、11月に同サービスの採用を決定し、2023年1月に活用に向けたプロジェクトを始動した。古賀氏によると、同サービスのPoCでは汎用機のエミュレータを実行したそうだが、その結果が想定以上に良好だったという。
同サービスの国内初の事例となることについては、「リスクも考えたが、デジタル推進本部のミッションとバリューに沿った判断をした」と、古賀氏は語った。
「当社のバリューに『すぐ動け。完璧じゃなくていい。』『前例は自分たちでつくれ。』がある。われわれがAWSに国内のメインフレームの要件を伝えることで、他の国内企業が同じことをできるのではないかと考えた。社長は常々『挑戦して失敗してもかまわない』といっており、国内初の事例となれるよう、チャレンジしたいという気持ちが大きかった」(古賀氏)
販売系基幹システムは、再構築により、データを基盤として販売システムに刷新された。「クラウドに移行したことで、ETLを活用して、データを疎結合できるようになった。また、保守人員も削減できた」と古賀氏。同システムの再構築は今年2月に完了している。
一方、その他のシステムはAWS Mainframe Modernizationサービスを用いて自動変換し、基盤をメインフレームからAWSに移行した。今年6月には旧基盤を休止する予定だ。
モダナイゼーション対象のアプリケーションは、COBOL、PL/1といったレガシーな言語で開発されていたが、同サービスにより、独自のビジネスロジックを事前に組み込むことで、当初は数年必要とみられていたJavaベースのプログラムコードへの自動変換を7カ月で完了できたという。
古賀氏は、「どのサービスを使っても同じなので、いかに自動変換を短期間かつ低コストで実行できるかが重要と考えた」と述べた。
メインフレームの年間システム維持コストを約80%削減
古賀氏は、販売系基幹システムを中心としたメインフレームアプリケーション群のモダナイゼーションを行った結果、数億円かかっていたメインフレームの年間のシステム維持コストが約80%削減されたと説明した。
加えて、基盤がモダナイゼーションされたことでデータの利活用も進み、データドリブン経営が加速し、「2025年の崖」という言葉に象徴される「レガシーの問題は解決したと考えている」と、古賀氏は力強く語った。
さらに、古賀氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)という観点から見ると、今回のモダナイゼーション実行によるデータ利活用基盤構築の次のステップとして、「データ利活用機能の充実およびサービスとの結合、AIのさらなる活用」「データ活用によるDX実現とデータドリブンの経営」を想定していると紹介した。