「デバイスの皆さん、ご卒業おめでとうございます」ーー。3月13日、東京都内の静まり返った区民ホールで、聞き慣れない言葉が響き渡った。
デスクトップノートパソコン(PC)やノートPC、キーボードやマウス、モニター。パソコン最大手のレノボが提供する役目を終えた各種デバイス20台が「卒業デバイス」として席に着いていた。
ビジネスやクリエイティブ、ゲームや動画視聴など、人々の生活を支えて続けてきた卒業デバイスたちは、再生可能な部品を取り出され、次の世代のデバイスへとバトン(部品)を渡す。
レノボのデバイスたちが卒業(再利用)へ
レノボ・ジャパンは13日、「デバイスたちの卒業式」を開催した。「地球環境を考える在校生」としてタレントの村重杏奈さんが、卒業デバイスたちの代わりに卒業証書を受け取った。
村重さんは「自分たちを支えてくれたものに感謝する。この卒業式をきっかけに企業のリサイクル活動に注目し、地球環境のことを考え直します」と、卒業デバイス一同に向かって送辞を述べた。
いつものような新製品発表会や事業戦略発表ではない趣向を凝らしたイベントだった。レノボ・ジャパンの檜山太郎社長は、「サステナビリティへの取り組みを世の中に伝えることは難しい。こうしたイベントを通じて、2050年までのネットゼロ達成に向けた当社の活動に興味を持ってもらいたい」と、この風変わりな卒業式を企画した意図を話した。檜山氏によると、2023年に270万台ものレノボのデバイスがすでに卒業したという。
2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることを目指すレノボは、中間目標として、2030年までに自社排出分「スコープ1」と、他社供給の電力使用などの分「スコープ2」のGHG排出量を50%削減することを目指している。
また、2026年までにすべてのPC製品、90%のPC製品のパッケージにリサイクル素材を使用する計画だ。すでに筐体へのリサイクル素材の採用を拡大させており、2005年以来、レノボの製品における再生プラスチックの累積使用量は、1億2300万キログラム(総量)を超えているという。
社会全体へサステナビリティを広げるレノボ
レノボはサステナブルな取り組みを自社内で完結させることなく、顧客企業に対しても広げている。
同社は、企業が使用しなくなったIT資産をメーカー問わずに査定金額で買い取る「機器買取サービス」を提供している。認証・免許取得済みのリサイクル業者・処理業者と共に、機器の回収から検品、データ消去、レポート作成までを一括で行っている。レノボだけでなく、他のメーカーのハードウェアも対象だ。
回収した資産の一部は、メモリ、ハードドライブといった再利用可能な部品を取り出すために分解され、リサイクル素材として生まれ変わるという。「まだ利用可能な機器は改修し、別の人に使ってもらう。このサービスを通じて機器の循環を後押ししたい」(檜山氏)
またレノボは、IT機器から排出されるCO2のオフセットを支援するサービスも提供。これはレノボの製品を購入後に、使用中に発生するCO2排出量を事前に算出し、その排出権を製品に組み込んで販売するというもの。
例えば、一般的なノートPCは生産から出荷、利用までのすべてのプロセスで約500キログラムのCO2を排出する。レノボの機器を利用する企業は、この分の排出権を事前にノートPCとセットで購入することで、ノートPCからの排出量を相殺して計算することができるという。
カーボンクレジットの購入、そして証明書の発行までをレノボが行い、必要に応じて実際に使用する機器に貼り付けられる証明シールも提供する。「環境にやさしいことが可視化されていることで、従業員の意識が高まることにもつながる」とのことだ。
檜山社長は今回の卒業式で「デバイスたちはこれからどうなるのか不安でいっぱいだと思う。本当に長い間お疲れ様でした」と感謝の気持ちを述べた。