NECブランドPCの国内生産拠点であるNECパーソナルコンピュータ米沢事業場が進化を続けている。

AGV(自動搬送車)や産業用ロボット、バーコードの自動読み取り機器など、革新的なテクノロジーを積極的に導入し、自動化率20%を実現。また、工場内の生産ラインに張り巡らされた約300台のカメラで作業員の動き方をデータとして集め、作業改善につなげている。

2024年度からは、バーチャル環境でラインを構築する取り組みや、人とロボットとの協調をさらに進め、自動化率を45%にまで高めていく計画だ。レベルの高いスマート・マニュファクチャリングに挑む同事業所の取り組みを取材した。

  • NECパーソナルコンピュータ米沢事業場 外観

    NECパーソナルコンピュータ米沢事業場 外観

80周年を迎える米沢事業場の歴史

米沢事業所は、山形県米沢市のJR米沢駅から徒歩10分程度のところにある。米沢事業場の歴史は古く、戦時中の1944年に東北金属工業(トーキン)の疎開工場としてスタートしたのが始まりだ。

その後、1983年にNECが出資して米沢日本電気を発足。1984年からNECブランドのノートPCの生産を開始した。レノボの傘下に入った2011年からは、現在のNECパーソナルコンピュータ米沢事業場へと名称を変えた。NECのPC事業における基幹工場としての位置付けは変わっていないが、2015年からはレノボのノートPC「ThinkPad」の生産を開始した。2024年は疎開工場として操業を開始してから80周年という節目にあたる。現在、約400人の社員が勤務している。

  • 米沢事業所の歴史

    米沢事業所の歴史

取材に応じたNECパーソナルコンピュータ 生産事業部 事業部長の塩入史貴氏は「2011年以降の累計生産台数は約1800万台を超える。ThinkPadの生産台数はそのうち1%で約18万台。約2万通りの多品種生産に対応し、受注してから2日後(首都圏は3日後)には納品できる体制を整えている」と教えてくれた。

  • NECパーソナルコンピュータ 生産事業部 事業部長の塩入史貴氏

    NECパーソナルコンピュータ 生産事業部 事業部長の塩入史貴氏

生産ラインの20%を自動化、進化した米沢事業所に潜入

「数年前に比べて人の往来や無駄な動きがかなり減った」ーー。塩入氏は米沢事業所の生産ラインを案内しながらこう語った。

生産ラインを見渡すと、何台ものAGVが構内を走り回っていた。協調制御された複数台のAGVが決められたレール上を走り、作業者に部品を渡したり作業者から部品を受け取ったりしていた。AGVによる搬送が実現したことで作業者の往来は激減したという。

  • ノートPCの生産ラインを走り回るAGV。部品や完成品などを運搬する

    ノートPCの生産ラインを走り回るAGV。部品や完成品などを運搬する

  • 目の前に立つと危険を察知して停止する

    目の前に立つと危険を察知して停止する

特に筆者の目を輝かせたのは、「パレタイジングロボット」と呼ばれる製品が梱包された箱をパレット上の決められた位置に積み上げる産業用ロボットだ。2021年1月に導入したもので、ロボットがレール上を移動し、複数のパレットに振り分けて積み上げる。

箱を持つハンド部分は独自に開発されたもので、さまざまな機種の製品に対応できるようにした。首都圏をはじめとする出荷台数が多いエリア向けの製品をロボットが担当する。地方といった出荷台数が比較的少ないエリア向けには手作業で積載を行なっている。

箱を持ち上げ、レール上を移動し、綺麗に積み上げるという一連の動作がとてもスムーズでかっこよく、しばらく目を離せないでいた。

  • 製品が梱包された箱をパレット上の決められた位置に積み上げる「パレタイジングロボット」

    製品が梱包された箱をパレット上の決められた位置に積み上げる「パレタイジングロボット」

  • 箱を持ち上げレール上を移動し……

    箱を持ち上げレール上を移動し……

  • 綺麗に積み上げていく

    綺麗に積み上げていく

レノボグループ初の取り組みも米沢事業所で見ることができた。既存の技術を応用し、製品の出荷前のリスト出力を自動化させた取り組みだ。

パレタイジングロボットや手作業でパレットに積み上げられた製品は配送の際、回転台を使ってビニールでぐるぐる巻きにして固定する。この回転台の技術とバーコードの自動読み取り装置と組み合わせた。

ビニールで固定する前の段階で、パレット全体を回転させそれをコードリーダで読み取る。コードリーダが上から順に自動で読み取り、すべて読み終えると停止する。従来までは作業員がPCのバーコードを一つずつ読み込んでいたが、同技術により自動化された。レノボグループの世界中の生産拠点から評価されているという。

  • パレット全体を回転させそれをコードリーダで読み取る。製品の出荷前のリスト出力を自動化した

    パレット全体を回転させそれをコードリーダで読み取る。製品の出荷前のリスト出力を自動化した

【動画】レノボ初の技術「バーコードの自動読み取り装置」

そのほか、入庫時の段ボールを開ける作業や、ノートPC用の外箱を組み立てる作業などをロボットにより自動化させていた。

段ボールの自動開梱機では、アームロボットに取り付けたカッターで部品が入った段ボールの上蓋部分を自動的に開梱する。これまでは4人の作業者が手持ちのカッターで開梱していたが、現在はすべての段ボールの開梱をロボットと1人の作業者に任せている。

「作業量は70%削減できた。稼働時間などのデータを収集しており、カッターの刃の交換を最適なタイミングで行える。手作業の開梱で怪我をしてしまう心配がなくなった」(塩入氏)

  • 段ボールの自動開梱機

    段ボールの自動開梱機

  • 段ボールの上蓋部分を自動的に開梱。取り扱うすべての段ボールに対応しているという

    段ボールの上蓋部分を自動的に開梱。取り扱うすべての段ボールに対応しているという

ノートPC用外箱を自動で組み立てるロボットは米沢事業場が独自に開発したもの。ほかの製造業各社からも評価されており、同装置の社外への販売も検討しているという。

  • ノートPC用外箱を自動で組み立てる装置

    ノートPC用外箱を自動で組み立てる装置

自動化率45%への挑戦 「ハイブリットなスマート工場へ」

同社は今後、生産ラインの自動化をさらに向上させ、自動化率を45%まで高めていくことを目指している。

具体的には、ノートPCなどの組立工程に小型のアームロボットなどを導入し、人とロボットの協調生産を推進していく考えだ。2024年度中に本番稼働するラインを1本新設する計画。「助手のようなロボットと人が並んで作業できるようにしていきたい」とし、今後は組み立てたPCの検査や、ラベルの貼付などの作業もロボットで自動化していきたい考えだ。

  • ノートPCの生産ラインの様子

    ノートPCの生産ラインの様子

  • こちらは鉄アレイを活用してフィルムを圧着させている様子

    こちらは鉄アレイを活用してフィルムを圧着させている様子

また、生産ラインシミュレータも活用していく。製造される製品の流れと、部品の供給や運搬などの物流をモデル化しシミュレーションを行う。

米沢事業所ではこれまで、実際に試作ラインを構築して、検証を行い、本番導入を行うという流れを構築していた。今後は、生産ラインをモデル化し、サイクルタイムなどの条件を与え実行することで、工程や設備の稼働率や生産数などの結果を確認できるようにしていく。効果を検証したり、課題を抽出したりできるようにしていく。

  • レノボのノートPC「ThinkPad」の生産ラインの様子

    レノボのノートPC「ThinkPad」の生産ラインの様子

「米沢事業場が培ってきた知見や熟練の作業者の経験を生かして、高品質の組み立て技術を維持しながら自動化を進めていく。しかし、人間が行うべき作業は必ずなくならないので、すべてを自動化することは考えていない。マニュアルとオートメーションを最適に融合させたハイブリットなスマート工場を目指していく」(塩入氏)