国立天文台は3月4日(ハワイ現地時間)、2023年9月の保守作業中に主鏡支持機構の異常な値が検出されて以来、すばる望遠鏡の夜間観測を停止していたものの、故障したセンサの交換や主鏡の補修などが無事完了して問題を解決し、3月3日(現地時間)より夜間観測を再開したことを発表した。
すばる望遠鏡は、1991年4月に国会で建設費が承認されたことを受け建設がスタート。1998年12月に初めての星の撮像である「エンジニアリングファーストライト」が達成され、年が明けた1999年1月に試験観測を開始し、およそ1年後の2000年12月に共同利用観測が開始されて今に至る。エンジニアリングファーストライトから見ても四半世紀以上の時間が経過しており、入念な点検は常時行われているが、装置の故障なども発生しやすい時期になってきたといえるかもしれない。そのため今回の異常検知は、定期点検がしっかり行われているからこその発見だったといえるだろう。
今回の問題は、昨年9月15日に行われた保守作業の一環として、望遠鏡の傾きを水平近くまで倒す稼動試験を行った後に垂直に戻した際に、3点ある主鏡支持機構の固定点に過大荷重を示す数値が検出されたことに端を発する。その後、望遠鏡を支持するアクチュエータの電源を入れて確認を行ったところ、継続して固定点の荷重異常(正常値より低い値)が示されたとする。
その後に行われた2週間ほどの調査で、光学系検出装置(シャックハルトマンカメラ)を用いて主鏡自体に変形が見られないことが確認されたことから、異常値の原因は、主鏡支持機構の固定点の力センサ本体の故障か、それ以外の故障かの調査に移行された。さらに1か月ほどの作業の後、固定点の力センサの不具合である可能性が高くなったことから、センサを3点とも交換することが決定された。センサは予備があるわけではないため、保守請負業者による調達が進められ、12月末時点で3点あるセンサの交換が完了。その結果、異常値が解消したという。また、交換したセンサの調査を行ったところ、故障していたことが判明した。
また、昨年9月の稼働試験中には、主鏡カバーの一部が自重で開き損傷してしまうというもう1つのトラブルが発生したとのこと。後日、当該カバーを修理中に金属部分(ギアレール)が落下してしまい、主鏡面に傷を生じさせてしまったとする。この時に生じたと考えられる傷は2か所で、1つは26mm×19mmの大きさ(傷の深さは推定最大9mm程度)と、もう1つ約10mm×7mmの楕円形(深さは1つ目より浅い可能性があるとされた)だった。なお、今回の傷は面積が小さく(主鏡面積の10万分の1程度)、補修後の観測に影響がないこと、また技術的に補修が可能であることが確認された。
主鏡の傷の補修に関しては、センサの交換後に作業が実施され、2月上旬までに完了。主焦点分光装置のガイドカメラで星を撮像し、主鏡の形状に大きな問題がないことが確認されたとした。
その後、望遠鏡の指向方向精度分析と主鏡形状分析が数週間程度かけて進められ、問題がなかったことから、2つの問題は解決されたと判断され、3月3日から望遠鏡が復旧。無事、夜間観測が再開された。
なお、すばる望遠鏡は現在アップグレード計画「すばる2」を実施中で、最終的に主に4つの装置が新たに稼働する予定だ。そのうち、すでに超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC、2013年稼動)と、地球型系外惑星探査(赤外線ドップラー)装置「InfraRed Doppler」(IRD、2018年稼動)はその世界屈指の高い性能を発揮中で、現在は、超広視野多天体分光器「Prime Focus Spectrograph」(PFS)と、広視野高解像赤外線観測装置「ULTIMATE-Subaru」の開発が進められている。
PFSはHSCと同様に望遠鏡の主焦点に搭載され、それまでと比べて視野が約50倍、同時分光天体数が約20倍の約2400天体となる。稼動開始は2020年代半ばとされているが、2022年9月にはエンジニアリングファーストライトが達成されたことが発表されており、正式稼動までもう間もなくとなっている。
そしてもう1つのULTIMATE-Subaruは、大気の揺らぎをリアルタイムで補正するための補償光学装置の最新版だ。2020年代後半の稼動を目指して開発中である。レーザービームを複数空に放ち、地表近くの大気揺らぎの補正に集中する技術「地表層補償光学」を搭載し、従来のすばる望遠鏡の補償光学装置に比べて200倍の視野を実現するという。
HSC、IRD、PFS、ULTIMATE-Subaruはどれも世界に類を見ない性能を有しており、今後PFSとULTIMATE-Subaruが稼動することで、2030年代以降もすばる望遠鏡が世界屈指の性能として活躍することが期待されるとしている。