国立天文台 ハワイ観測所は2月8日、すばる望遠鏡を使った観測で、かみのけ座銀河団から数百万光年にわたって延びるダークマターの様子が捉えられたことを発表した。

同成果は、韓国・延世大学のJames Jee博士らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

  • 宇宙の大規模構造のシミュレーション。ダークマターはこのように網目状に分布すると考えられている

    宇宙の大規模構造のシミュレーション。ダークマターはこのように網目状に分布すると考えられている。ダークマターの「糸」が何本も交わる「節」の部分には銀河団が形成される。(c) Millenium Simulation(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

宇宙の全エネルギーは、そのおよそ7割が宇宙膨張に関わる未知のダークエネルギーで占められており、残りのおよそ3割は物質で、そのうち我々が認識できる通常物質は15%ほどしかない。観測可能な「宇宙の地平線」までの範囲内(直径およそ940億光年)にはおよそ2兆個の銀河があると推定されており、それぞれの銀河には平均すれば1000億の星があるとされる。星間ガスや星間塵などもあり、通常物質だけでもとてつもない量に思えるが、それでもたったの15%しかなく、残りのおよそ85%は電磁波による観測ができないため、今もってその正体がわからない物質であるダークマターである。

一般的に通常物質は、衛星や惑星などある程度以上の質量を持つサイズになると、丸くなる(液体の場合、微小重力環境下なら小さくても丸くなる)。しかし、ダークマターの場合は、銀河や銀河団が網の目構造を形成している「宇宙の大規模構造」の"骨格"になっていると考えられており、細長い糸状の「コズミックウェブ」の形で存在しているとされる。ただし、ダークマターは通常物質とは重力でしか相互作用をしないため、もちろん実際にダークマターそのものが糸状となっているのが確かめられたわけではない。上述したように、ダークマターの強い重力によって集積した通常物質が網目構造を作っていることで、間接的な証拠とされているのである。

銀河団同士をつなぐダークマターの糸は「フィラメント」と呼ばれており研究チームは今回、それを検出するため、かみのけ座銀河団に着目することにしたという。

  • かみのけ座銀河団の領域で検出されたダークマターの分布(緑色)

    かみのけ座銀河団の領域で検出されたダークマターの分布(緑色)。背景はHSCで撮影された画像。弱重力レンズ効果が精密測定され、ダークマターの分布が明らかにされた。この画像では、銀河団の中心部(画像中央)からダークマターが放射状に延びる様子が捉えられている。(c) HyeongHan et al.(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

かみのけ座銀河団は、地球から最も近い大規模な銀河団の1つで、うすく広がったダークマターの構造を検出するのにうってつけの対象とされるが、唯一の問題として見かけの広がり方がとても大きいため、研究に必要な領域を十分にカバーできる望遠鏡がほとんどないとされている。

その数少ない広い領域を高感度かつ高解像度で観測できるのが、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)。今回、HSCの優れた性能が遺憾なく発揮され、かみのけ座銀河団から延びるダークマターの姿を初めて捉えることに貢献した。今回の研究では、HSCで撮影された銀河の形状が、ダークマターの存在によってごくわずかに歪められる「弱重力レンズ効果」を精密測定して、ダークマターの分布が調べられた。その結果、数百万光年にもわたって延びているダークマターは、この構造がコズミックウェブの一部であることを明確に示しているという。

研究チームのJee博士は、現在広く受け入れられている宇宙の構造形成理論(標準理論)を検証する上で、今回の研究成果は重要な証拠になるものとしている。