高輝度光科学研究センター(JASRI)と理化学研究所(理研)の両者は2月27日、JASRIが運用する大型放射光施設SPring-8のX線輝度を大幅に向上させるアップグレード計画「SPring-8-II」が検討されている中、最大計数率と「バンチモード」(放射光X線パルスのタイミング)の関係が不明だったため、同モードの種類に対する「光子計数型2次元検出器」(PCD)の実効的な最大計数率をシミュレーションにより評価した結果、同モードごとにPCDの最大計数率を定量的に明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、JASRI 回折・散乱推進室の今井康彦主幹研究員、理研 放射光科学研究センター 先端放射光施設開発研究部門 制御情報・データ創出基盤グループの初井宇記グループディレクターらの共同研究チームによるもの。詳細は、シンクロトロン放射およびX線自由電子レーザー研究に関する全般を扱う「Journal of Synchrotron Radiation」に掲載された。
SPring-8-IIでは、50~100keV領域の高エネルギー放射光X線の強度が、現在の100倍以上になると見込まれている。このような大強度でX線回折・散乱を高精度に測定するには、検出器側でX線のエネルギーしきい値を設定できるPCDが適していると考えられている。その理由には、PCDは高エネルギーX線の測定において、試料からの蛍光X線やコンプトン散乱などのノイズをしきい値によって排除できることがある。
ただしPCDでは、高計数率域ではパイルアップ(同時または極短時間に連続して2つ以上のX線パルスが検出器に入って区別できないこと)によってX線光子の数え落としはどうしても避けられない。そのためPCDに必要なのが数え落とし補正であり、その補正後のデータの正確度(線形性)は、バンチモードによって異なることは知られていたが、定量的な評価がなされていなかったという。
SPring-8では、8種類のバンチモード(A~Hモード)の放射光X線がある。モードが異なると、パルス状の放射光X線が試料に到達する周期が異なってくる。そこで研究チームは今回、放射光X線に対するPCDの応答をシミュレーションし、モードごとに信頼できるX線強度の上限を求めたという。
今回の研究では、信頼できるX線強度の上限を、数え落とし補正後の誤差が1%以下となる最大強度として定義された(実効最大計数率)。まず、8種類のモードと蓄積リング1周に均等に電子が蓄積された完全なマルチバンチモードについて、実効最大計数率を求めたとする。
不感時間が120nsのPCDの場合、Aモードでは、PCDに入るX線強度が0.916Mcps/pixel(1画素あたり毎秒91万6000カウント)以下であれば、1%またはそれよりも良い正確度のデータが得られることがわかった。一方、Fモードの実効最大計数率は0.012Mcps/pixelと、Aモードの約1/76だったことから、Fモードでは、信号強度が強い実験においてデータに1%の正確度を必要とする場合、X線強度を弱める必要があるかもしれず、Fモードでは有効利用できない可能性があるとした。
このように、バンチモードとPCDの不感時間に応じてPCDが受け入れられる最大強度が明らかにされたことで、X線を有効に使って必要な正確度のデータが得られるようになることが期待されるとしている。
また、PCDの不感時間を考慮してバンチモードの時間構造を見直すと(たとえば完全マルチバンチモード)、より高い強度まで信頼できるデータを得ることができることも判明。バンチモードの時間構造は、PCDの実効最大計数率に大きな影響を与えるという。SPring-8-IIに対するバンチモードの時間構造を決める際には、時間構造を積極的に利用する実験の効率だけでなく、ビームラインで使われている多数のPCDの効率を考慮した総合的な検討が必須であることも確かめられたとする。
光源性能が飛躍的に向上するSPring-8-IIでは、現在は1日かかるような超精密測定が数10分にまで短縮され、1000試料以上の大規模な試料群あるいは試料に急激な温度変化を与えながら測定する、といった新たな展開が可能となると期待されている。研究チームによると、このような高速測定時には高計数率時の正確度が重要になるとのこと。今回の研究により高エネルギー放射光X線実験において、PCDを高い正確度で動作させるための基礎的な知見が得られたといい、この知見を基礎にすることで、SPring-8-IIでの大強度・高エネルギーX線を利用する研究が進展することが期待されるとしている。