OKIはこのほど、研究開発中の技術や取り組みを紹介するイベント「OKI OPEN LAB 2024」を、同社の技術開発拠点であるOKI蕨(わらび)システムセンター(埼玉県 蕨市)で開催した。今回のように自社の技術を広く公開する試みは、同社では初となる。
まず、代表取締役社長の森孝廣氏が登場し、「当社はこれまで情報開示が遅れていた面もあると反省している。OKIは技術の会社であり、技術が経営や共創の源泉となるので、ぜひ将来性を測ってほしい」と挨拶を述べた。
また、「私が社長に就任して約2年が経過し、会社を変えたいという思いでコツコツとやってきたので、少しでも変化を感じてもらえれば。今回の主たる目的はオープンイノベーションであり、当社として初の試みであるため情報開示のリスクはあるが、それよりもオープンにすることで新しいチャンスを得たい」と、イベントの開催に至った思いも明らかにした。
続いて執行役員の前野蔵人氏が登場し、イベントの概要を説明した。同氏によると、OKIのコアコンピタンス(核となる得意領域)は「タフネス」だという。安全な社会インフラの構築を目指す中で培った「止まらない・止めない」を実現するタフネスをベースに、現場に強いエッジの高度化とデータ活用を推進する。
「例えばコンポーネント技術では、単に劣悪な環境でも壊れない頑丈なものを作るだけではなく、センシングやAIの信号処理もタフネスである必要がある。このように、コンポーネントからプロダクト、システム、オペレーションに至るまで、当社のバリューチェーン全体がタフネスであることを理解してもらえたら」(前野氏)
同社が掲げる技術コンセプトは「エッジプラットフォーム」だ。コアコンピタンスであるタフネスなエッジのコンポーネントとデータの利活用を新たな価値提供につなげ、多様な顧客課題の解決に挑戦するという。エッジプラットフォームを支えるのは「AI」「データマネジメント」「エッジデバイス」。イベントでもこれら3つのテーマごとに研究成果が披露された。
テーマ1:AI
同社はAIに関して、特に現場で長年培ってきた光や映像、音などのアナログ信号処理技術により、社会インフラのさまざまな情報を複合的にAIで解析するほか、AIモデルの軽量化技術により社会実装を推進して課題解決を支援する。
センシング技術の例として、超高感度分布型の光ファイバーを用いた歪(ひずみ)・温度センサーが展示された。橋梁やトンネル、のり面などの初期の形状変化を検出可能な測定システムを構築することで、目視に代わるインフラ維持管理コストの低減につなげる。
また、工場などの設備の振動をレーザーで遠隔から計測可能にするソリューションも紹介された。近接困難な対象物の振動を計測できるようにすることで、設備保全の低コスト化を実現するという。光ファイバーを防水加工すれば、屋外への設置も可能だ。
テーマ2:データマネジメント
データマネジメントでは、同社の強みである現場のエッジデバイスが生み出すデータをつなぎ新しい価値の創出を進める。マルチモーダルなデータを連携することで、社会インフラ全体の強靭化と高度化に貢献するとのことだ。
その例として、海洋インフラの保全などに有用と考えられる海洋データプラットフォームが紹介された。センサー技術や水中音響処理技術、海底ケーブルなどを活用する。水中の音響信号をブイや水中マイクなどで取得し、船舶の種類や海洋生物(クジラなど)の鳴き声を識別するものだ。
これまでに鉛直方向、および垂直方向のデータ通信に成功し、今後は発信機に対し受信機が1対Nとなるデータ通信や、マルチホップ通信によるさらなる遠距離化などに挑む予定だ。
製造プラットフォームでは、複数の工場のデータを連携して仮想的な一つの工場とみなす「バーチャル One Factory」や、生産ラインの効率化を支援するソリューションを展開する。
自律移動ロボットRATシステムは、搬送物や用途に応じて異なるメーカー製のロボットをコントロールできるプラットフォームを実現している。これにより、最適なロボットを選択して導入可能になったとのことだ。必要に応じてカスタムにも対応する。製造現場を多く抱えるOKIならではのアイデアが詰め込まれているそうだ。
テーマ3:エッジデバイス
同社が打ち出す「タフネス」をデータが生まれる現場でまさに支えるのが、独自のエッジデバイスである。エッジについては個別開発からの脱却を図っているそうで、コンポーネントを共通化しながら展開していくという。
また、半導体付加価値向上技術や製品化における集積回路の共通化プラットフォーム、製品デバイスなどさまざまな段階で省エネルギー化にも取り組む。異なる半導体材料を分子間力のみで接合するCFB(クリスタル フィルム ボンディング)技術により、マイクロLEDなどの活用が進むと期待される。空中へのディスプレイ表示やAR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)への応用も可能となるようだ。
他にも、展示の中には、ATMなどで使われるディスプレイの視認性を高める取り組みなどが紹介されていた。太陽光下の強い光でも視認性が要求される航空機コックピットで使われる低反射技術を応用している。
従来品に発生するディスプレイの空気層を接着剤で密着することで、屈折率を下げ、反射光量を3分の1程度まで抑制している。