アステラス製薬は2月7日にトップマネジメント体制の変更を発表して、4月1日付でCDTO(Chief Digital & Transformation Officer:デジタル & 変革担当)を新設することを明らかにしていた。同職には2023年11月1日付でCDO(Chief Digital Officer:デジタル担当)として入社した、Nick Eshkenazi(ニック エシュケナジー)氏が就任する。

同氏はこれまでに、SanMar CorporationのCIOやFanaticsのCIO、Costco Wholesaleのテクノロジー担当、Woolworths Groupのデジタルテクノロジー担当などを歴任。2022年9月からはExoFlareの諮問委員会を務めている。さまざまな業界でデジタルテクノロジーを活用しビジネスを変革してきた経験を生かして、アステラス製薬におけるデジタルケイパビリティの強化を率いる。なお、今後はオーストラリアを拠点に活動するという。

このほど、同氏は報道関係者向けにCDTOとして掲げるアステラス製薬のデジタル戦略、そして今後の展望を語る機会を設けた。

  • アステラス製薬 CDTO Nick Eshkenazi氏

    アステラス製薬 CDTO Nick Eshkenazi氏

まずはデジタルリソースを社内に取り戻す

アステラス製薬は今後数年間で、まずはエンド・ツー・エンドで自社ソリューションのオーナーシップを取り戻す取り組みに注力するという。これまで場当たり的に構築したために複雑化したデジタル資産をシンプル化する目的がある。また、これまで社外にアウトソースしてきた開発についても、一部社内に取り戻す。

これにより、アジリティ(俊敏性)とイノベーション能力を向上し、さらには効率性の改善を狙う。同時に、患者向けの価値創造の迅速化も図る。同社全体としての能力向上を継続的に進める方針だ。

そのためのアプローチとして、アジャイルな運用モデルの構築、強力なプラットフォーム構築による一貫したオペレーションなどを進めるそうだ。イノベーションと改善のバランスを取りながら成長を目指す。

  • 新たな価値創造に向けたアステラス製薬の戦略概要

    新たな価値創造に向けたアステラス製薬の戦略概要

イノベーションのための3段階ピラミッドモデル

Nick氏は自身の経験から、イノベーションと新たな変革を実現するための3段階のピラミッド型モデルを示した。それが下図だ。

  • Nick氏が示した3段階のモデル

    Nick氏が示した3段階のモデル

まず、3層の下段はオペレーショナルエクセレンスだ。デジタルのビジネスを最適化し、一貫性をもって効率的に運用する基盤を構築する。

中段は価値創造エンジンの構築。シンプル化を図り複雑さを軽減し、社内全体でデジタル能力の向上を図る。約束を実行する体制の構築が重要なのだという。

上段は最終的に目指すべきイノベーションと変革である。患者に届ける高い付加価値の創造を目指す。さらに、高速で改善と成長を遂げる機会を模索する。

アジャイルな運用を促す「デジタルガードレール」

続けてNick氏が示したのは「デジタルガードレール」だ。これは、ルールや制限によってアジャイルな成長を阻害するのではなく、あくまでガードレールを示して、自由で高速な成長を促すという概念だ。

原則として、まずは優先順位の変更を歓迎し、柔軟な対応を許容する。製品やサービスではデジタルテクノロジーとデータの卓越性を構築し、持続可能なペースの中で頻繁にアップデートしていく。

さらには、部門横断的な組織「ポッド」を編成して、共通のテーマに向けた取り組みを促す。部門をまたがる小さな組織を無数に構築することで、迅速かつ柔軟に課題に対応できるのだという。最終的には、新しいものを受け入れる好奇心、創造性、協力体制を通じて変化を受け入れる体制につなげる。

  • アジャイルな変化を促す行動原則

    アジャイルな変化を促す行動原則

同社ではデータに基づく変革を進めるために、データサイエンスに関するブートキャンプを実施中だという。社内公募に対し700人ほどの申し込みがあり、データを利活用するためのツールやスキルについて学んでいるそうだ。今後は各自が部署にそのノウハウを持ち帰り共有することで、データに基づく生産性向上の仕組みが期待できる。

また、Nick氏は「テクノロジーの沿革を振り返ると、必ず民主化が必要になる」とも指摘した。テクノロジーの民主化は今まさにAI(Artificial Intelligence:人工知能)や機械学習で起こっていることであり、ノーコード・ローコードツールを活用して社内でデータ活用を民主化するのが、同氏の狙い。

2026年までのデジタル戦略ロードマップ

最後にNick氏は、2026年に向けた3年間の戦略的ロードマップを示した。2024年においては引き続きアジャイルな運用モデルの構築と浸透を進める。また、冒頭で述べたようにデジタルリソースを社内に取り戻す動きも継続する。合わせて、デジタルスキル、特にデータ分析に関するスキルの民主化に取り組む。

2025年にはデジタルテクノロジーの上に成り立つイノベーションの創出を本格化する。患者、パートナー、医療提供者を中心とした企業活動を主軸に切り替え、これらのステークホルダーに寄与しない活動については順次停止していく予定だとしている。

2026年はアジャイルな運用を推進し、より柔軟な体制の構築を行う。外部環境や課題への適応力を高めていくとのことだ。イノベーションと変革を主たる焦点に、デジタルテクノロジーを活用した価値創造に注力していく。

  • 今後3年間のロードマップ

    今後3年間のロードマップ