社会の発展にはどんな分野であっても研究が不可欠であり、十分な研究を行っていくためには「場所」「機器」「人材」など多くの要素を整える必要があるが、そのためには多くのコストが必要とされる。しかし、特に創業初期のベンチャー企業などは、資金力に乏しく、思うような研究ができないことも多い。そうした状況を打破するべく、研究者などのライフサイエンスプレイヤーが集まれる賃貸型のラボ&オフィス「三井リンクラボ」を提供しているのが三井不動産だ。

2020年に「三井リンクラボ葛西」を立ち上げたのを手始めに、2021年3月には「三井リンクラボ新木場1」をオープンし、現在は新木場エリアに計3施設を整備している。そして2024年1月29日、新木場エリア2棟目となる「三井リンクラボ新木場2」内に、ライフサイエンス分野の研究で使うさまざまなものをその場で1点から購入できる店舗「三井リンクラボ LINK Stock」をオープンさせた。

今回は同店舗のオープンに併せて、三井不動産 ライフサイエンス・イノベーション推進部 ラボ&オフィスグループの冨田悠稀氏とLINK Stockで実際に顧客対応に当たっているアズワン サービス営業部 サービスプロモーショングループ スーパーバイザーの菅原大輔氏に話を伺い、実際に店舗内の様子や初公開となるバックヤードの様子までを見せてもらった。

  • 三井不動産 ライフサイエンス・イノベーション推進部 ラボ&オフィスグループの冨田悠稀氏

    今回お話を伺った、三井不動産 ライフサイエンス・イノベーション推進部 ラボ&オフィスグループの冨田悠稀氏

よりよい研究環境の構築へ、“三井リンクラボ”立ち上げに込めた思い

東京の日本橋に本社を構える三井不動産。その昔、日本橋が商人の町であったということは有名な話だが、実は江戸時代から薬種商が集まっていた関係から、現代でも製薬企業などが集積しており、ライフサイエンスの町という顔も持ち合わせている。そんなライフサイエンスの町でありながら、「日本には賃貸型のラボがほとんどないため、研究をしたいのに十分に研究できる場がない」という声を多く聞いたことが三井リンクラボを始めるきっかけとなった。

  • 三井リンクラボ新木場2の外観

    三井リンクラボ新木場2の外観

三井リンクラボの特徴は、ハード面とソフト面の両軸にある。ハード面では、建物が供給できる電気の量が通常のオフィスビルに比べて約3~5倍ほど多いほか、空気を綺麗に保つための空調機能が優れており、オフィスビルでは難しいドラフトチャンバーを使った研究など、さまざまな研究に対応できるスペックが整えられている点が強みだと冨田氏は語っていた。

また、立地に関しても都心近接型やシーズ近接型など複数のロケーションのラボがあり、都心近接型では大企業や投資家などさまざまなプレーヤーとコンタクトが取りやすいといったメリットが、シーズ近接型では病院やアカデミアといったシーズとの連携が取りやすいといった強みがあるという。

ソフト面としては同社に元製薬企業で働いていたサイエンティストが約7名ほど在籍しており、そうしたスタッフの知見などを活用する形で専門的な部分までカバーしながら事業を進めることができていることが特徴として挙げられていた。

研究者のためのコンビニ「LINK Stock」とは?

今回、新たにオープンした「LINK Stock」は、ラボの入居者が消耗品や備品、試薬といった研究に必要なものを、必要な時に1点から購入することを可能にした、いわば“研究者のためのコンビニ”のようなものだ。

LINK Stockの仕入れや相談コーナーなどの運営そのものは研究用機器などの総合卸を行うアズワンが行っており、三井不動産とアズワンが連携しながら研究者のサポートを行っている。

  • LINK Stockの内部の様子

    LINK Stockの内部の様子。限定販売品として普段は箱売りしかされていない商品も1点から購入できる

冨田氏曰く、研究に必要なものはインターネットで代理店を通して注文することが多いため、1点ずつその場で購入できる仕組みや実験に使う試薬をリアル店舗で購入できるのは恐らく日本で初の試みとのこと。

そうした事情がある中、あえて立ち上げた背景としては、三井リンクラボに入居しているテナントとのヒアリングを重ねる中で、研究に必要な備品の購入や管理に対して悩みを抱えているケースが一定数あることを知り、必要な時に必要な分だけ買えるコンビニのような形で研究に必要な備品を置けないかとのアイデアからだという。

従来、研究で用いられる消耗品などは箱売りが一般的で、発注してから早くても翌日の発送となり、手元に到着するまでには時間がかかっていた。また、ベンチャー企業などは研究を行える場所の面積が狭いことが多く、箱で購入したとしてもすべて使い切るまでに時間がかかり、その間その箱ごと保管しておく必要があるが、限られたスペースの中でそうした余分な荷物を置いておくためのスペースを確保することが難しいとの声もあったそうだ。

「通常、会社単位で発注管理が行われるので箱買いになってしまいますが、不特定多数の企業が入っている賃貸型ラボだからこそ、そうした小売りニーズと合致し実現できたと思います」と冨田氏は自信を見せていた。

研究開発のイノベーションを促進するLINK Stockでできること

LINK Stockが提供する価値は、研究用の消耗品や試薬を1点から購入できることだけではない。

三井リンクラボには、共通機器室として数千万円もするような高価な実験機器を入居者が共同利用できる仕組みがあり、自分たちで投資をするにはハードルが高い機器に対して、30分で数百円のように課金制で使えるサービスが提供されている。

LINK Stockでも数千万円まではいかなくとも高価でニーズのある機器に対してレンタルができるサービスを実施しており、そうした普段使わなくても、ある時必要になった高額な機器を使いたいときに気軽に借りることができるのだ。

  • レンタルサービスができる商品の棚の外観

    レンタルサービスができる商品の棚の外観

また、研究のサポートサービスも充実しており、機器の不具合や商品など研究に関わる悩みをスタッフへ相談できるコーナーも用意。営業時間内(9時~18時)であればいつでも相談を受け付けているのも特徴だ。

  • アズワン サービス営業部 サービスプロモーショングループ スーパーバイザーの菅原大輔氏

    アズワン サービス営業部 サービスプロモーショングループ スーパーバイザーの菅原大輔氏。営業時間内であればいつでも相談に乗ってくれる

さらに、実験機器は使っていると測定誤差が生じるようになるが、そのズレを校正してくれるサービスや、研究用機器などの総合卸を行うアズワンだからこそできる最新メーカー情報をラインアップした陳列コーナーも完備。サンプル提供も行っているため気になる商品を気軽に使ってみることもできる。(校正サービスについては、具合または故障の生じた機器の受付対応および代替機の提案を実施するもので、LINK Stock内で修理を実施するものではない。)

加えて、実験サンプル配送代行サービスも調整中だとしており、コストを抑えながら手間を省いて実験の際の試料を送る仕組みも整えている最中とのことだ。

  • 最新メーカー情報をラインアップした陳列コーナー

    最新メーカー情報をラインアップした陳列コーナー

LINK Stockを実際に体感

LINK Stockに実際に入店してみると、一般的なコンビニの風景の中に、研究に使う商品がずらりと並べられている様子を見ることができる。

店舗にある商品数としては現時点(2024年1月末時点)で560点ほどだが、テナントの要望を最大限活かした商品ラインアップを実現するため、今後入居するテナント次第ではラインアップもかなり変更される可能性があるという。

また、バックヤードには、試薬を保管できる冷蔵庫や冷凍庫、毒劇物保管庫が可能な薬品庫などを完備している。研究に関わる試薬や試料は温度管理が非常に大切なため細やかに設備が整えられていた。

  • バックヤードでは毒劇物も保管できる設備が充実している

    バックヤードでは毒劇物も保管できる設備が充実している

利用方法としては、入居時にテナントごとに専用のカードが発行され、商品を購入する時は商品のバーコードとその専用カードをスキャンさせる形で購入が完了する仕組みになっており、企業として費用が落ちるようになっているため、その商品ごとに支払いを行う必要はないとのこと。

  • テナントごとに発行される専用カード

    テナントごとに発行される専用カード

  • 商品のバーコードをスキャンすると購入できる

    商品のバーコードをスキャンすると購入できる

商品以外にも研究の悩みなども気軽に聞けるような環境に

冨田氏は今後の展望について、三井リンクラボをこの新木場を中心に事業機会があれば広げていきたいと語っている。また、LINK Stockに関しては初めての取り組みのためニーズが手探り状態であるとし、以下のような決意を聞かせてくれた。

「特にベンチャー企業は小回りが効く動きを求められるので、我々としては店舗にて日々のやり取りができるというのは良いタッチポイントになると思っています。テナントさんとコミュニケーションを密にとって細かいニーズの吸い上げを行い、よりよい研究環境の構築のお手伝いができるようにしたいですし、商品でなくとも研究に関する悩みなども気軽に聞けるような環境にしていきたいです」(冨田氏)。

困り事を抱え込むことなく、よりよい研究環境を一緒に作りあげることができる三井不動産のLINK Stockのような取り組みは、今までさまざまな問題で思うように研究できていなかった企業を多く救うことになるのではないだろうか。

  • テナントにも好評の実験器具のおもちゃが入ったカプセルトイも回すことが出来る

    LINK Stockに訪れた際には実験器具のおもちゃのカプセルトイも回すことが出来る。テナントにも好評だとしていた