京都大学(京大)と琉球大学の両者は2月8日、中国で絶滅したと考えられていた両生類「オオサンショウウオ」の一種「チュウゴクオオサンショウウオ」が、日本国内の動物園と水族館で1頭ずつ飼育されていることを発見したと共同で発表した。
同成果は、京大大学院 地球環境学堂の西川完途教授、同・松井正文名誉教授、琉球大学 教育学部の富永篤教授、国立環境学研究所の大沼学研究員を中心に、国立科学博物館、北九州市立いのちのたび博物館の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
オオサンショウウオは、失われた手足を完全に再生できることで知られるサンショウウオの仲間で、日本の在来種で特別天然記念物である。中国にはその近縁種であるチュウゴクオオサンショウウオがいてそれが日本に持ち込まれたのは1960年代以降のことだという。その後、飼育施設から逃げ出したり、おそらくは野外の河川に放されたりしたことで、オオサンショウウオと交雑するようになったと考えられており、その結果、現在では各地で文化財保全および生物多様性保全の観点から問題になっている。しかし、最初に日本の河川に放された遺伝的に純粋なチュウゴクオオサンショウウオも、実は本来の生息地である中国では絶滅の危機に瀕しているという。さらに近年、チュウゴクオオサンショウウオは複数種に分割され、一部の種は絶滅または絶滅の恐れが非常に高くなっているとする。
そこで研究チームは今回、交雑オオサンショウウオのスクリーニングをする目的で京都市の鴨川のサンプルと、比較のために三重県と奈良県の日本のオオサンショウウオ、さらに徳島県の河川で捕獲されたものと動物園、水族館、個人宅で飼育されていたチュウゴクオオサンショウウオの遺伝子型を、ミトコンドリアDNAと核DNAのマイクロサテライト領域について調査することにしたという。
調査の結果、45個体の交雑個体と、28個体の広義のチュウゴクオオサンショウウオが発見されたとする。そして、その後者の中には、中国では野外絶滅したとされていた「スライゴオオサンショウウオ」4個体が発見されたが、残念ながら現在も生存しているのは2個体だったという。次に性別が調べられたが、オオサンショウウオは繁殖期以外では性別の判定が見た目では難しいため、雌の性染色体の一部領域を増幅するプライマーを用いたPCR法により鑑定が行われた結果、増幅が見られないために2個体とも雄と判断された。
実はスライゴオオサンショウウオは、かつて新種とされながら、後の研究でチュウゴクオオサンショウウオの同物異名とされていたものが、2019年に復活して再び独立種になったものである。原記載の時に調査されたのは1個体の標本(死んで標本にされたもの)のみ、さらに復活時には野外の個体群は絶滅しており、生きた個体の体色や形態が観察されたのは初めてのことになるという。今回の研究の結果、原記載論文での調査にミスのある可能性なども明らかになり分類に関する研究が進展したとする。
オオサンショウウオの仲間の中でも、最も大きくなるスライゴオオサンショウウオは両生類としても世界最大で、本来の生息地では絶滅した種でもあることから、研究チームではできれば個体群を復活させて、今度は絶滅しないよう保護したいとしている。
問題は、現在は雄しか生存していないことだが、死んでしまった雌の細胞組織が冷凍保存されていることが確認されたことから、現在生きている雄個体の生殖細胞の凍結保存に加えて、死んでしまった雌の細胞組織を用いたクローン個体の復活と、その個体を用いた人工繁殖を計画しているとした。
また、狭義のチュウゴクオオサンショウウオも貴重な種であり、日本で発見され動物園や水族館で飼育されているそれらの個体を、英国の動物園に集約して系統ごとに人工繁殖をさせられないか、そして将来的に野外導入できないかという計画も出てきているとした。