信州大学(信大)、早稲田大学(早大)、愛媛大学(愛媛大)、国立天文台(NAOJ)の4者は12月15日、すばる望遠鏡の大規模サーベイ「HSC-SSP」から、塵に覆われた銀河「DOG(Dust-obscured galaxy、ドッグ)」を大量に発見し、そのうちの8天体は、まさにDOGを覆う大量の塵を吹き飛ばしてクェーサーになりつつある天体であることを解明するとともに、「BluDOG(Blue-excess DOG、ブルドッグ)」と命名したことを共同で発表した。

  • HSCで撮影されたブルドッグ

    HSCで撮影されたブルドッグ。3種類のフィルター(g、r、i)で撮影された画像をそれぞれ青、緑、赤の擬似カラーで表された合成画像。ブルドッグで青い光の超過があることがわかる。(c)NAOJ/HSCCollaboration(出所:信大Webサイト)

同成果は、信大 全学教育センターの登口暁研究員、早大 理工学術院の井上昭雄教授、愛媛大 宇宙進化研究センターの長尾透教授、NAOJ ハワイ観測所の鳥羽儀樹特任助教(NAOJフェロー)、信大 全学教育センターの三澤透教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

銀河中心の超大質量ブラックホール(SMBH)が非常に活動的で、中でも銀河の中心核の明るさが、その銀河全体の星の明るさの総量をも上回るほどまぶしい天体は「クェーサー」と呼ばれている。同天体がどのように誕生したのかは未解明だが、仮説の1つに「ガスを多く持つ銀河同士の合体が引き金となる」というものがある。このシナリオでは、大きく分けて以下の5段階があると考えられている。

ガスを多く含む銀河の合体がクェーサーを産むという仮説の5段階

  1. ガスを多く持つ銀河同士が合体
  2. 塵に覆われた爆発的星形成が発生
  3. 塵に覆われたクェーサーが誕生
  4. 塵を吹き飛ばすアウトフロー(外向きの物質の流れ)が発生
  5. 明るく輝くクェーサーが姿を現す

これらは理論的な予想であるため、観測による検証が必要となる。しかし、塵に覆われている段階は可視光では極めて暗いため、クェーサーの前段階に相当する2段階目~4段階目の発見は困難だった。

  • クェーサーの進化に対する理論的な予想シナリオ

    クェーサーの進化に対する理論的な予想シナリオ。(c)信大 全学教育センターの登口暁研究員ほか(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

そうした中、近年になって前段階の天体を効率よく探すため、“可視光で暗く中間赤外線で明るい天体”を探すという手法が提案された。実際、ある程度の面積(数十平方度)を可視光で長時間撮像することで、2段階目と3段階目に相当するドッグはすでに発見されていた。しかし探査面積が十分でないため、4段階目にあたるアウトフロー段階の天体は未発見であり、この問題解決にはさらに広い面積を観測できる装置が必要だったとする。

そこですばる望遠鏡では、超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いて、合計1400平方度(全天の30分の1の面積)以上を観測するプログラムのHSC-SSPを2014年からスタート。2016年には、観測済みの面積のうち100平方度以上の部分が今回の研究に使用できる状態となったという。

今回の研究ではまず、HSC-SSPによる可視光データと、米国航空宇宙局(NASA)のWISE衛星の中間赤外線データを用いて、可視光で暗く中間赤外線で明るい天体が探索された。その結果、100億~110億光年前の遠方宇宙でドッグが571天体発見され、これによりアウトフロー段階の天体の探査を行えるようになったとのことだ。

その探査の実施にあたって、研究チームは進化後のクェーサーの特徴の1つである可視光線で青い天体に着目したという。これまでドッグについては、塵に深く覆われていることから、大半が単に赤い天体だと信じられてきた。しかし仮にクェーサーに進化している途中ならば青く光り始めている可能性があると推測し、青い光の超過を持つドッグを探したといい、結果として、青く光る8天体が突き止められ、それらはブルドッグと命名された。

そして今回、ブルドッグの青い光がクェーサー由来であることを確かめるため、分光観測が行われることになった。クェーサー由来ならクェーサーによく似たスペクトルが観測されるはずだが、星形成銀河でも大質量星が青い光を放つため、ブルドッグの青い光を説明できる可能性が残っていたとする。

そこで次に、すばる望遠鏡の「FOCAS」やヨーロッパ南天天文台の巨大望遠鏡VLTの「FORS2」などの視光分光装置によるブルドッグの観測が行われた。その結果、クェーサーによく似たスペクトルだったという。またスペクトル成分の解析から、中心付近に外向きにガスが流出していると考えられる結果も得られたとし、この特徴はまさに、ガスや塵を吹き飛ばしながらクェーサーへと進化している段階にあると考えられるとした。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)により、120億~130億年前の初期の宇宙で、「ERO(Extremely red object:極めて赤い天体)」と呼ばれる種族が発見されている。それらはSMBHの特徴を示し、クェーサーの誕生と深い関係がある新しい天体種族ではないかと考えられた。そうした中で研究チームでは、そのスペクトルがブルドッグとよく似ていることを発見し、詳しく比較したとのこと。その結果、EROはクェーサー直前のアウトフロー段階にあるブルドッグと同様の天体であると結論付けられた。つまりEROは、“宇宙の夜明けの時代”のブルドッグだったのである。

一方、EROとブルドッグでは、SMBHの質量も光度もブルドッグの方が大きいなど、異なる点も見つかった。またブルドッグはドッグの中でも希な天体だが、EROはそのほとんどが青い光の超過が示された。このことからアウトフローの起こりやすさや規模が違う可能性も考えられたが、詳細は現時点では不明だという。論文筆頭著者の登口研究員は、今後サンプルの統計数を増やしたり、詳細な分光観測を行うことで、これらの疑問を解決していくとしている。

  • ブルドッグとEROの平均スペクトル分布図

    ブルドッグとEROの平均スペクトル分布図。0.4μmの明るさが1になるようにしている(出所:信大Webサイト)

2023年12月19日10時50分訂正:「HSCで撮影されたブルドッグ」として掲載していた画像ですが記事初出時、誤ったものを掲載していたことを確認したため、当該画像を正しいものに差し替えさせていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。