シリコン系太陽電池に比べ、製造方法が簡便で、かつ薄くて軽く、なおかつ曲げることができる「ペロブスカイト太陽電池」。2月7日、「テクニカルショウヨコハマ 2024」の主催者セミナーとして、神奈川県の黒岩祐治知事、ペロブスカイト構造を有する有機ハロゲン化鉛を光吸収層に用いたペロブスカイト太陽電池を世界に先駆けて開発した桐蔭横浜大学の宮坂力 特任教授(工学博士)、マクニカ代表取締役社長の原一将氏の3人が「ペロブスカイト太陽電池から考える脱炭素社会の実現にむけて」というテーマで脱炭素への戦略を語った。また同イベントでは、マクニカがサーキュラーエコノミーをテーマにブースを出展、担当者が語った同社のソリューションについても触れてみたい。

太陽光発電パネルの進化とペロブスカイト太陽電池の台頭

まず、黒岩知事が神奈川県知事選挙で初当選した2011年の夏ごろは、太陽光発電があまり普及していなかったという(「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」、いわゆる再エネ特別措置法が成立したのが2011年8月26日。この法律の成立により再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度が導入され、太陽電池の普及が進むこととなった)。しかし、同年3月に発生した東日本大震災の被害を目の当たりにした黒岩知事は、環境保護を踏まえつつ神奈川県を今後どのように守っていくのかについて、当選前よりもより真剣に考えるようになったという。

  • 神奈川県の黒岩祐治知事

    神奈川県の知事として当選し、今後の神奈川県の今後について環境を踏まえて考えるようになったという黒岩祐治知事

再エネ特別措置法の成立もあり、2011年以降、徐々にシリコン系の単結晶タイプやアモルファスシリコンタイプの太陽電池が世の中に普及していったものの、敷設コストが高く、また重さもあり発電可能な設置場所にも制限がある、製造に手間とコストがかかるなど、普及に向けた課題点も多数残っていたという。

注目を集めるペロブスカイト太陽電池の特長

しかし、近年注目を集めるようになってきたペロブスカイト太陽電池は、薄いフィルムにペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を薄く塗布することで太陽光を電気に変えることができるため、フィルムを折り曲げて設置することも可能。そのため、従来のシリコン系では設置が難しかった円柱状の柱に巻き付けたりすることもできるほか、透過性があるため、窓ガラスなどにも適用することができるといったメリットもある。

  • テクニカルショウヨコハマ 2024のマクニカブースに展示されているペロブスカイト太陽電池の実機

    テクニカルショウヨコハマ 2024のマクニカブースに展示されているペロブスカイト太陽電池の実機

また、可視光の利用率が高いため、室内外問わずどこでも発電ができ、近年の研究では発電効率も20%を超すものが報告されるなど、結晶系に並ぶほどに向上してきたほか、真空環境なども不要なためコストも低く、製造にかかる時間も短くできるといったメリットもある。宮坂 特任教授も、同セミナーにて実際に、ペロブスカイト太陽電池に光を当ててプロペラを回すデモを披露するなど、室内でも簡単に電力を生み出すことが出来ることを強調していた。

  • 宮坂 特任教授がペロブスカイト太陽電池に光を当ててプロペラを回すデモを行っている様子

    宮坂 特任教授がペロブスカイト太陽電池に光を当てて実際にプロペラを回すデモを行っている様子

宮坂 特任教授によると、コストが押さえられる理由の1つとして、主な原料である「ヨウ素」が国内で調達できることが挙げられるとのこと。日本のヨウ素生産量は世界第2位というほどで、海外からの輸入に依存することなく製造することができる強みがあるという。

また、マクニカの原社長は同社の中心事業である半導体とペロブスカイト太陽電池は深い関わりがあることを強調。「半導体が普及すれば、多くの電気が必要になる。そうすると、エネルギーがより多く必要となる」とし、「エネルギーの地産地消」、究極は一人一人が発電する「おひとりさま発電」を将来的には実現させたいとしていた。

  • マクニカ代表取締役社長の原一将氏が話す様子

    マクニカ代表取締役社長の原一将氏が目指すのはエネルギーの地産地消、それも一人一人が自分の分を発電して消費する社会だという

マクニカの将来を見据えた循環型社会の実現に向けたソリューション

原社長によると、マクニカではこうして発電された電力を貯めておくための鉛蓄電池も開発しているとするほか、IoT化も進めることで循環型社会への貢献を目指しているという。

なぜ鉛蓄電池が循環型社会を推進させるのか。鉛蓄電池は、充電サイクルを繰り返し、蓄電池としての寿命を迎え交換が必要となった際、使用済みの鉛蓄電池を回収し、適切な処理でリサイクルを行うことで再生鉛を活用した蓄電池として再利用することができるからだという。

  • テクニカルショウヨコハマ 2024のマクニカブースに展示されている鉛蓄電池の実機

    テクニカルショウヨコハマ 2024のマクニカブースに展示されている鉛蓄電池の実機

太陽光などの再生可能エネルギーで作られた電力は、一定期間にわたって電力会社が固定価格で買い取る「FIT(固定価格買取制度)」という国によって定められた制度があるものの、このFITの期間が切れると電力会社による買取価格が低くなり、売電するよりも自身で使うほうがメリットを享受できるようになってきていることから、蓄電池に対する需要も高まりつつある。こうした背景もありマクニカとしても、循環型社会を支えるソリューションとして、鉛蓄電池を今後、積極的に販売していきたいとしている。

黒岩知事は「宮坂先生はノーベル賞をとる人だと思っています。皆さんは歴史的瞬間をみたのです。エネルギー革命を神奈川県から世界へ広げていきます」とセミナーを締めくくった。

なお、「テクニカルショウヨコハマ 2024」は2024年2月7日〜2月9日までパシフィコ横浜にて開催されており、マクニカブースにて実際のペロブスカイト太陽電池の実機などを間近で見ることができる。