米バイデン政権が、IntelやTSMC、Samsung Electronicsなど米国での半導体生産を進める大手半導体メーカー向けにCHIPS法に基づく数十億ドル規模の助成金支給を近く発表する見込みだと複数の米国メディアが報じている。

その中でいち早くこの動きを報じたWALL STREET JOURNAL(WSJ)によると、この助成金支給はスマートフォン(スマホ)、人工知能(AI)、兵器システムなどに向けた先端半導体の製造工場建設支援を目的としたもので、Micron Technology、Texas Instruments、GlobalFoundriesなども助成金を受ける可能性があるという。米国半導体業界関係者の話では、助成金の支給発表は3月7日に予定されている大統領の一般教書演説前に行われる見込みだという。

助成金の決定遅延で遅れる工場の建設

TSMCのMark Liu会長は1月18日に開催した同社の決算説明会にて、米国アリゾナ州に建設を進めている4nmプロセス採用の第1工場について、2025年からの稼働開始を計画(当初は2024年に稼働する計画であった)しているとするほか、3nmプロセスを予定している第2工場については、2026年の稼働開始から2027~2028年にずれ込むとの見方を示している。

Liu会長は説明会にて、工場稼働遅延の主な理由として米国政府の助成金支給のめどが立っていないことを示唆する発言をしていたが、新工場を米国で進めているIntelやSamsungも、米国政府の助成金支給が遅れれば、その分、工場の建設も計画から遅延していくといった苦言を呈していた。

これまでにCHIPS法に基づく助成金の交付が決定したのは、以下の少額の2件のみである。

  • 米BAE Systems Electronic Systems(英BAE Systemsの米国子会社で軍事半導体チップのレガシーファウンドリ)に3500万ドル
  • 米Microchip Technology(軍事用を含むマイコンメ-カー)に1億6200万ドル

今回のバイデン政権の動きが実際に行われれば、今秋の大統領選挙を前に、これ以上、助成金の支給を遅らせるのは、大量雇用創出を望む国民の不満を高めるリスクであると見ているようにも見受けられる。大手半導体メーカーに対する助成金支給が遅々として進んでいない理由については明らかになっていないが、米商務省傘下のNISTが公募し採用されたさまざまな分野の審査委員による審査が極めて厳格なためとみられている。

なお、米商務省はCHIPS法に基づき、半導体製造工場の新増設に関する390億ドル(5年間累計)の予算については確保済みであるが、現在までに750社が助成金に興味を示し、そのうち250社以上が申請済みともいわれており、実際に助成金を受け取るのは狭き門になっていると思われる。2023年12月、ジーナ・レモンド米商務長官は、米国の半導体生産を再構築する可能性のある数十億ドル規模の大型助成金を含め、2024年内に約12件の資金提供を行うと述べている。