三菱電機は1月25日、同社のAI技術「Maisart」の1つとして、循環する身体動作の確率的生成モデルを適用することで教師データの作成を不要とし、製造現場の人の作業分析を数分で実現する「行動分析AI」を開発したことを発表した。

またそれに伴い、説明会を実施。三菱電機 先端技術総合研究所長の高林幹夫氏と同 先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部長の蔦田広幸氏が同技術に関する説明を行った。

  • 左から三菱電機 先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部長 蔦田広幸氏、先端技術総合研究所長 高林幹夫氏

    左から三菱電機 先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部長 蔦田広幸氏、先端技術総合研究所長 高林幹夫氏

手順に従った繰り返し作業であることに着目

今回、同社が発表した行動分析AIは、製造現場では自動化が進展する一方で、人が作業する工程が数多く存在していることや、人によって作業時間や品質にばらつきが生じるため「作業分析」による改善が重要であるということを背景に開発された。

作業分析とは、作業を構成する「部品の取出し」「ネジ締め」などの要素作業の時間を定量化して、ばらつきの原因を把握する手法のこと。

一般的な作業分析AI技術は、人が教師データを作成し、AIは教師データを学習することで作業分析を実現しているが、教師データの作成が人手のため、長い時間と手間がかかってしまうという。

  • 一般的な作業分析AI技術の課題

    一般的な作業分析AI技術の課題

このような課題を背景に開発されたのが、行動分析AIだ。AIが教師データ不要で詳細に作業分析できるため、人は分析結果を確認するだけで、作業分析にかかる時間を最大99%削減することを可能としている。

「われわれは、人による多様な作業を教師データ不要で分析する技術を開発するために、梱包作業や検査作業、組立作業などの作業が『手順に従った繰り返し作業であること』に着目しました。繰り返しに伴って『循環する身体動作をモデル化したAI』を開発することで、教師データ不要での作業分析を実現しています」(高林氏)

  • 行動分析AIの特徴を説明する高林氏

    行動分析AIの特徴を説明する高林氏

行動分析AIの使用方法

同技術を用いた作業分析では、まず、一連の作業を撮影した動画から骨格を検知し、作業者の身体動作を波形データとして取得。次に、取得した身体動作の波形データを、循環する身体動作の確率的生成モデルを適用した行動分析AIで分析するという流れとなる。

これにより、AIに対して、1サイクルの作業にかかるおおよその時間を入力するだけで、作業中の身体動作から、部品の取り出しやネジ締めなどに相当する要素作業を自動で見つけ出し、作業分析の結果を得ることができる。同じ要素作業同士を比較して、他と時間の長さや波形が異なる標準外作業を検知することも可能だ。

さらに、同技術では作業分析の結果を動画データと併せて表示できるため、ユーザーはAIが見つけた要素作業を動画から簡単に確認し、それぞれの要素作業に、部品の取り出しやネジ締めといった名前を短時間で登録できるという。

  • 身体動作の計測のイメージ

    身体動作の計測のイメージ

同技術の活用方法としては、「時間のばらつきの定量比較」「代表作業動画による比較」「異常作業検知A Iの教師データとして利用」の3点が挙げられている。

時間のばらつきの定量比較は、箱ひげ図(データのばらつきを分かりやすく表現するための統計図)でそれぞれの要素作業における時間のばらつきを図示する活用する方法だ。他の作業者と比較して、作業者一人ひとりの特徴を可視化した改善が可能となっている。多くのサイクルを分析するため、従来の作業分析では負担が大きい課題があったが、行動分析AIにより短時間での図示を実現したという。

代表作業動画による比較に関しては、行動分析AIの分析結果から、作業者一人ひとりの代表作業動画を自動で作成することで、熟練者と初心者といった異なる作業者を比較して、一目で違いを確認可能することができるという使用方法だ。作業改善の指針の立案や、熟練作業の伝承を支援するとしている。

最後の異常作業検知AIの教師データへの利用については、作業分析と同じく教師データの作成が課題視されている異常作業検知AIの教師データとして、行動分析AIの分析結果を使用することで異常作業検知AIを短時間で実現し、品質不良の防止に貢献できるというものだ。

なお、行動分析AIによる作業分析の性能としては、人手を100%とした時の約90%程度となっており、多少の差は見られるものの、大きく性能に問題は確認されていないとのこと。

今後は、社内外の製造現場においてさらなる検証を進め、2025年度以降の製品化を目指すとしている。また今回の開発成果について、1月31日から東京ビッグサイトで開催されるIIFES 2024に出展し、デモンストレーションを実施する予定だ。