三菱電機は12月6日から三菱電機グループのイベントスペースであるMEToA Ginzaにて、「この物語、あなたはどう読む?マンガ×AI展」というタイトルで、「AIの倫理性」について考えるイベントをオープンさせた。筆者は今回、開催に先駆けてイベントを体験してきたので、その内容をレポートする。

同社は、生成AIを中心としたAIに関するフェイクニュースが話題になる中で、AIに関する倫理性を考える機会を広く提供することが重要だと考え、すでに事業の一貫として取り組みを始めている。

今回オープンしたイベントは、AIが一般的になった世の中で起こりえる社会課題について学べるものとなっており、「AIとくらす未来を考える」をテーマに、マンガや推理ゲームなどが展示されている。マンガは、映画「ちはやふる」シリーズや「カノジョは嘘を愛しすぎている」などで知られる小泉徳宏監督が主宰するROBOTのシナリオ制作チーム「モノガタリラボ」が制作に携わったオリジナル作品だ。

加えて、遠隔操作ロボットなど、人間とAIが共存していくための三菱電機の最新AI技術も公開されている。

漫画で「アノテーション」を学ぶ

2階のイベント会場に入ると最初に目に入るのは壁一面に投影された「マンガのコマ」だ。この展示は、巨大スクリーンの全面に投影されたマンガの世界に入り込むことができる、マンガとインタラクティブ映像が融合した新感覚の体験型コンテンツとなっている。

  • 壁一面に映し出された漫画

    壁一面に映し出された漫画

この漫画を読み進めると、AIの開発に欠かせない「アノテーション(テキストや音声、画像、動画などあらゆる形態のデータの1つ1つに、タグやメタデータと呼ばれる情報をラベル付けしていく工程のこと)」を体験できる仕様だ。

コンテンツ内には、「物を拾う」という何でもない自身の行動を誰かによって「不審行動」だとラベル付けされてしまうという漫画のシチュエーションを再現した体験が用意されている。

  • 物を拾うというなにげない行動が不審行動にアノテーションされてしまう

    物を拾うというなにげない行動が不審行動にアノテーションされてしまう

またマンガの読了後には、目の前に映し出された画像について、自分の主観で2択からラベリングするという「アノテーター体験」も用意されている。寿司の画像を見て「本物か食品サンプルか」を選択したり、外でスマートフォンを掲げる女性の写真を見て「道に迷っているか写真を撮っているか」を選択したり、答えのないものにラベルを付けるという体験を行う。

同社はこれらの体験を通じて、AI活用における倫理感や社会課題を学ぶことができ、これからのAIとの向き合い方を考えることを期待しているという。

  • 写真を見て2択からラベル付けする

    写真を見て2択からラベル付けする

また、このスクリーンに投影されたマンガの他にも、モノガタリラボが制作に携わって作られたマンガが公開されている。先進国と開発途上国との立場の違いから生まれる問題や環境問題、働き方の問題をテーマにした「この星、空の下で」、AIへの恋愛ともつかない不思議な感情をテーマにした「アイするということ」という2つのマンガが公開されており、さまざまな視点からAIとの共存について考えることが可能だ。

  • 右から「この星、空の下で」「アイするということ」

    右から「この星、空の下で」「アイするということ」

ロボットと人間の共存できる世界を考える

続いて3階に上がると、AIの推理過程のブラックボックスを謎解き推理ゲームで体験する「探偵アイの事件簿」という展示が目に入る。このコーナーは、「なぜAIはこの答えを出したのか」という推論過程を解明するため、参加者自身が物語の登場人物となり、謎を解く推理ゲームとなっている。

  • 「探偵アイの事件簿」コーナー

    「探偵アイの事件簿」コーナー

そして推理ゲームを終え、奥に向かうと「遠隔操作ロボット」の展示が行われている。この遠隔操作ロボットは、人が作業するのに困難な場所での作業でもスマートフォンを使いながらロボットを遠隔操作することで簡単に作業できるという三菱電機の最新技術だ。

実際に会場には、海岸やゴミ山、山岳地帯をモチーフにしたセットの中に遠隔操作ロボットが設置され、参加者がスマートフォンを操作しながらセットの中に置かれたボールを除去するという体験ができる。

  • 遠隔操作ロボットの展示の様子

    遠隔操作ロボットの展示の様子

この遠隔操作ロボットについて、三菱電機 遠隔操作ロボット事業化プロジェクトの主席技師長である春名正樹氏は、「遠隔操作にせず、単体で全ての作業を完結できるロボットも開発することは可能です。しかし、開発途上国における働き口の確保などを考えると、それが100%正しいとは言えないのではないかと私は考えています。これから先、AIやロボットといった技術と人間が上手に共存していける世の中を作っていきたいです」と語った。

また同イベントが行われるMEToA Ginzaの1階カフェスペースでは「マンガ×AI展」をイメージしたコラボメニューも展開されている。

  • 「マンガ×AI展」をイメージしたコラボメニュー

    「マンガ×AI展」をイメージしたコラボメニュー

ここまで紹介してきたように、今回のイベントは、AI技術の中でもアノテーションやAIの推理過程というあまり聞きなじみのないジャンルがテーマにされているが、マンガやゲームといったコンテンツを使用していることで、非常に分かりやすく学ぶことができると感じた。普段AIに関わる技術者はもちろん、初学者にこそ体験してほしいイベントだ。

AIと人間が手を取る未来はもうすぐそこまで来ている。