北海道大学(北大)、BIPROGY、テクノフェイス、慶應義塾大学、モーションリブ、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の6者は1月10日、「視て触れる」新しい医療通信システムを実現し、2023年9月13日から10月4日にかけて北大病院・帯広厚生病院・函館中央病院の3拠点を結んだ遠隔触診の実験に成功したことを共同で発表した。
同成果は、北大 量子集積エレクトロニクス研究センターの池辺将之教授、北大病院/北大大学院 医学研究院の岩崎倫政教授、同・遠藤努特任助教、北大大学院 情報科学院の野津綾人大学院生、BIPROGY、テクノフェイス、慶大、モーションリブ、AnchorZ、NTT Comの共同研究チームによるもの。今回の成果の一部については、2023年10月17日~20日に開催された「CEATEC 2023」の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ブースで体験型の展示が行われた。
新型コロナウイルスの流行以降、医療の現場でも遠隔での診察などが求められている。また超高齢社会と人口減少が慢性化している日本において、地方や離島などでは患者の病院までの距離の問題、高度専門医の都市部偏在や遠隔地の医師不足といった地域による医療格差などの問題が顕在化しており、北海道の多くの地域でもその問題に直面しているという。そうした問題を背景として、遠隔オンライン診療の潜在的ニーズが高く、地域の特色を活かした遠隔医療技術の推進が重要視されている。
そうした中で、NEDOが推進するポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業において採択されたのが、池辺教授が研究開発責任者を務める先導研究テーマ「ポスト5Gに向けたマルチモーダル情報の効率的活用と触診・遠隔医療技術への応用」(研究期間:2020年10月~2023年10月)だ。
今回の研究では、触診向けセンシング機器および力触覚技術(リアルハプティクス)を活用した触覚情報の数値化と遠隔における再現、そして、5Gを通じて「視て触れる」を可能にする、遠隔への信号伝送に不可欠な触覚情報と視診向けの高精細動画との連動技術の開発を試みたという。
この遠隔触診の実現は、DtoD(医師間伝送)を想定したもの。センシング機器で送信側医師により取得された触診情報を、圧子物理に基づいた多チャンネル応力情報として、瞬時に深さに応じた弾性値へ変換できるのと同時に、センシング情報の逐次変化から粘性も取得できるとする。そして、そのセンシングデータを動画フレームごとに埋め込むことで、触覚情報と動画内の時空間が完全に同期して紐づけされ、視診向けの動画単体で触覚情報を含むコンテンツ・データベースとして機能できるようになるとした。またリアルタイムの伝送については、遠隔触診を実現し、コンテンツの扱いにおいて触診履歴の蓄積保存とカルテなどの情報共有、触診の定量化など、教育にも展開できるとしている。
今回の実証に向けては、2023年9月13日~10月4日に、北大病院、帯広厚生病院、函館中央病院を5Gで結び、上腕部のリアルタイム遠隔触診が実証された。触覚センシングデータと4K解像度の動画を統合した後、遠隔地にて動画と紐づく触覚を再現することで実現されたもので、その実証実験では、上腕部の各部位(骨部・筋肉・腱)の触感再現と弁別、各部位の弛緩・緊張状態の弁別や逐次変化の再現・確認が、複数の医師によって行われた。
今回の技術は、ポスト5Gおよび6Gで見込まれる人間の感覚を共有する「人間拡張技術」(ロボット、センサ、通信、AIなどを用いて、人間の能力を補完・向上したり、新たに獲得したりするための技術のこと)の1つであり、新しい医療通信システムの構築とその臨床展開が期待されるという。そして、これまで十分な医療を届けられなかった地域や人々に対し、専門医の知見を提供することにつながっていくとする。
これまで遠隔地では、触診できないことが対面診療と比較し誤診のリスクを上昇させる懸念から、本格的な遠隔医療の実現が容易ではなかった。しかし今回のリモート触診デバイスによる触覚伝送・再現システムが実現すれば、遠隔オンライン診療の可能性は大きく広がっていくとのこと。それと同時に今回のシステムは、ポスト5Gおよび6G世代の人間拡張技術に関する多くの分野への展開も大きく期待されるとしている。