宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月5日、2023年9月7日に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM」に搭載された軟X線撮像装置(Xtend:エクステンド)および軟X線分光装置(Resolve:リゾルブ)のファーストライト観測データを公開した。

XRISMは打ち上げ後、順次、初期機能確認運用を実施。衛星バスの各種機能の確認作業に続いて、2023年10月7日から観測装置の機能確認と調整が進められ、ファーストライト観測が行われていた。その運用として、Xtendは、2023年10月14日から10月24日にかけて約7億7000万光年の距離にある銀河団「Abell 2319」の観測を実施。X線画像の取得に成功したとするほか、一方のResolveについては、2023年12月4日から12月11日にかけて大マゼラン星雲にある超新星残骸「N132D」の観測を実施。こちらもX線スペクトルの取得に成功したという。

Xtendのファーストライト観測対象となったAbell 2319は銀河団同士が衝突している天体で、得られた画像からは2つの銀河団それぞれに付随する高温ガスの分布を捉えることに成功しており、今後の銀河団同士の衝突現象の全貌や、宇宙の大規模構造の進化の理解につながることが期待される成果だとJAXAでは説明している。

  • 銀河団「Abell 2319」の画像

    銀河団「Abell 2319」の画像。可視光とX線の観測を重ねたもので、紫色で表した部分がXtendで取得されたX線画像 (C)X線(JAXA)、可視光(The Digitized Sky Survey)

一方のResolveのファーストライト観測で得られたX線スペクトルは前々世代のX線分光撮像衛星「すざく(ASTRO-EII)」では見分けることができなかった複数の輝線を分離できており、観測している高温ガスに含まれる元素の種類と量、高温ガスの温度や運動速度をこれまでよりもはるかに正確に導くことが可能であることが示されたとする。また、エネルギー分光精度は、要求7eVに対してそれを超える5eV以下の性能を軌道上で確認することができたともしている。

  • 超新星残骸「N132D」のスペクトル

    太陽系から約16万3000光年彼方にある大マゼラン雲にある超新星残骸「N132D」のスペクトル。白色で示したスペクトルがResolveで取得したもの。灰色で示したスペクトルがX線天文衛星「すざく」で取得したもの(出典:Bamba et al., 2018, ApJ, 854, 71)。グラフの背景画像はXtendが撮影したN132D (C)JAXA

なお、1月5日時点でXRSIMの状態は正常で、定常運用段階への移行を目指した初期機能確認運用が続けられている状況。すでにバス機器(電源系、姿勢制御系、通信系など)の機能確認を終えたほか、恒星センサ、太陽センサ、故障検知機能も正常に動作していることも確認したとする。また、Xtendは検出器(X線CCD)を所定の-110℃に冷却し、すべての観測モードで画像が取得できることが確認されたほか、Resolveも検出器(X線マイクロカロリメータ)を-273.1℃(0.05K)に冷却して安定的に制御することに成功しており、要求以上の分光分解能を達成したとしている。ただし現時点で、検出器を保護する膜の開放が所定の手順で実施できていないため、より適切な環境条件に変更して再実施する計画としているものの、保護膜を閉じた状態でもこれまでにない性能で観測に成功していることから、2024年2月からは定常運用段階に移行し、保護膜を開放する運用と並行して、初期較正検証のための本格的な観測を開始する予定だとしている。