ガートナー ジャパンは12月12日、13日に「ガートナー ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス」を開催した。本稿では、同社 シニア ディレクター アナリストの一志達也氏が「間違いだらけのデータ活用基盤:それ本当に使い手のためになりますか」と題して講演したセッションの内容をレポートする。

  • ガートナー シニア ディレクター アナリスト 一志達也氏

「使い手のためのデータ活用」とは

一志氏は冒頭、データ活用やデータドリブンの取り組みが進んでいることを示した上で、「それらは使い手のためになっていますか?」と聴講者に問い掛けた。

よくあるのは、インフラ担当者が顧客情報や生産管理といったさまざまなデータソースを、やや強引に1カ所のデータ基盤に複製、統合するケースだ。その後はBIツールなどで可視化して現場のユーザーへ共有する、というのが一般的な流れだろう。しかし、一志氏は「元のデータを見に行けば良いんじゃないか、わざわざ複製して無理に1カ所にまとめる必要はないのでは」との疑問を持っているという。そもそもデータ自体が分離して管理されているのであれば、無理に束ねていく必要はないというのだ。

同氏曰く、こうした事態が起きるのは、データ基盤を作るインフラ担当側と、その基盤から抽出されたデータを使うユーザーとの間にギャップが生まれていることが原因だという。

「データの使い手側は、データのエキスパートではありません。求めているのは、自分に課せられた業務に必要な情報が引き出せることです。BIツールを開くことが目的ではなく、情報を求める上で仕方ないからBIツールを開いているのです」(一志氏)

つまり、インフラ担当者が考慮すべきは、いかに使い手のニーズに応えられる基盤を作るかということになる。一志氏は「供給すべき情報やデータの加工・分析の方法は常に変化する」と語る。

目指すべきは「データの製品化」

一志氏はここで、データ基盤の話題でたびたび取り上げられる「データレイク」と「データウェアハウス」の役割の違いについて、ガートナーの定義を述べた。

データレイクでは、「いつか活用する可能性があるデータ」を元の形式のまま全て格納する。これにより、データの一元管理と柔軟な分析を可能にするものだ。一方のデータウェアハウスでは、格納の時点である程度用途が決まっており、データが構造化されている。つまり、「今日の来店客は何人?」「今日の店舗の売上は?」といった問いに対してすぐに答えられるように設計されているわけだ。

企業によってはこういった定義があいまいになっていたり、基盤を提供するインフラ担当とデータの利用者の間で認識の齟齬が生まれていたりするケースがあるという。

そこで一志氏は、社内における「データの製品化」を推奨した。ここで言う製品化とは、生成、蓄積されたデータを誰でも使えるような形に加工することを指す。生データを共有するのではなく、社内の利用者のニーズに応じられるようなデータをリリースして利用を促進することが求められるというわけだ。

「私たちがデータと呼ぶものの多様化が進んでいます。それをどう管理するか、いかに資産を守って価値にしていくかを考える必要があるでしょう。たくさんの専門用語を並べ立てても、一般的な経営者やユーザーが理解できるわけがありません。相手には相手のわかる言葉で話していくことが求められます」(一志氏)

同氏は続けて、データ基盤の構築について「一枚板の基盤を立てればいいわけでもない」と話す。基盤を作ってもそれが社内で利用・定着するかどうかは利用し始めなければわからない。そのため、いきなり巨額の予算を投じるのではなく、スモールスタートで定着を目指すことを勧めた。

誰がデータの製品化を進めるべきか

では、誰がデータの製品化を進めればよいのだろうか。一志氏は、データ管理者と管理者が所属する専門組織が必要だと話す。

現場のデータ利用者はそれぞれにミッションがある。そのミッションに役立つ情報(データ)を、誰かが提供しなければならない。そうした役割は、中央集権的な専門組織が担うだけでは不十分であり、営業部などの現場部門に担当を配置することも必要だという。

  • 一志氏が語ったデータ活用の基本的な考え方/出典:ガートナー(2023年12月)

「営業部のケースで言えば、現場でデータの加工や処理、あるいは営業部長に対してのアナリティクスの結果提供をするスタッフを設けている企業もあります」(一志氏)

あくまでデータやその基盤ツールは「機能」を提供するものであり、それを使いこなすには誰かが「サービス」を付与しなくてはいけない。集まったデータを業務の課題や状況に応じて加工・分析する必要があるのだ。

一志氏は「生データではなく、その人にとって役立つ情報を的確なタイミングで、その人が便利だと思う手段で提供することが大事」と強調し、講演を締めくくった。