通勤前の忙しい時間、待ち合わせに遅刻しそう、そんな時にふと「のどが渇いたな……」「朝ごはんを食べたいな……」そう思いつつも、“レジに並ぶ時間”という予測不可能な待ち時間がネックになってつい諦めてしまう人も多いのではなかろうか。
「お店に入って、買いたい商品を取って出るだけなら良いのに」――実は、そんな購買体験ができるウォークスルー店舗「CATCH&GO」が2023年10月、ダイエーが運営するイオンフードスタイル横浜西口店内にオープンした。同店舗は、NTTデータが提供するデジタル店舗運営サービス「Catch&Go」の導入によって実現されたものだ。
今回、店舗の開設に携わったダイエーとNTTデータの両担当者に話を聞く機会を得た。レジなし決済を実現した仕組みに加え、開店から1カ月あまりが経過した時点での手応えなど、新感覚店舗のリアルをお届けする。
軽快な購買体験はどのように生み出されるのか
店舗の様子について、筆者が実際に体験してみた。ロケーションはJR横浜駅西口からほど近い商業施設「CeeU Yokohama」の1F路面に位置しており、通勤や通学の際に気軽に立ち寄れそうなポイントだ。
来店客は事前に専用アプリをダウンロードし、決済手段を登録すればすぐに利用できる。アプリで表示されたQRコードを店舗の入り口に設置されたゲートのリーダーにかざすと、ゲートが開いて入店が可能。後は好きな商品を手に取って、店舗を出ればよい。
品ぞろえは飲み物、おにぎりやサンドイッチ、お菓子などの軽食類が多い。また、ティッシュやマスクなどの生活用品もある。棚の前で悩む商品というよりは、入店前から「これが欲しい」と狙って手に取るような商品が多かった印象だ。
退店すると、すぐに決済が完了。アプリへ購入明細が送付される。初のウォークスルー店舗の体験ということもあり、個人的には「決済が無事できているのだろうか……」と不安にもなったが、購入明細が即座に反映されていて安心した。
では、どういった技術で購入者・商品の情報や決済情報を管理しているのだろうか。
店内には35台ものAIカメラが設置されており、来店客や商品棚を監視している。また、各商品の棚には重量センサーを搭載。店内で客が商品をピックアップする動きに加えて、重量センサーの重さの変動でセンシングする仕組みだ。
同店舗では最大12人までであれば、商品の購買など店内の動きをエラーなく正確に把握できるという。
「レジは並ぶもの」と刷り込まれていた筆者は、これまで一度も経験したことのないスムーズな購買体験に心底驚いてしまった。
ダイエーは計画通りの顧客層の獲得に手応え
ダイエー リテールビジネス改革本部 ICT企画部 部長の山内洋氏は「開業1カ月が経過して、日を追うごとにリピーターが増えている」と手応えを語ってくれた。
「出店計画時から、通勤時間などの短い時間でコンビニのように利用してもらいたいと思っていました。実際に体感したお客さまからは『こんなに簡単に買い物ができるんだ』とのお言葉もいただけています。通行量が多い場所ということもあり、想定通り朝の7時台~8時台くらいが最も来店客の多い時間帯ですね」(山内氏)
1人当たりの購入点数は2、3点が多いとのこと。飲み物+お菓子、おにぎり2点といった組み合わせが多いそうで、あらかじめ想定していた「ササっと手に取れるもの」(山内氏)の購買実績が高いという。いわば計画通りの動きを見せており、滑り出しは好調の様子だ。
蓄積されたデータを見ると、土日や祝日に家族連れが訪れるケースも多いという。「ベビー用品を置いてほしい」といったニーズもあるとのことで、品ぞろえについては今後調整予定だ。
CATCH&GOが無人店舗コンビニ的な使い方ができる一方で、同じフロアには有人のスーパーマーケットも併設されている。 CATCH&GOにはない焼き立てのパンや惣菜などはそちらでも買えるため、来店客は目的に応じて店を使い分けられる。
「 CATCH&GOの在庫管理や発注なども、有人店と連携しながら効率良く回せるようになっています。今後は商圏に合った品ぞろえができるようにデータを蓄積して活用したいですね」(山内氏)
「どうすれば支持してもらえるか」NTTデータの見立ては?
そもそも、ウォークスルー店舗の構想自体は3年前から始動しているもので、2021年の9月から現在に至るまで、NTTデータの豊洲本社内で実証実験を行ってきた。
NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業本部 アセットベースドサービス推進室 課長代理の西郷拓海氏は実証実験を踏まえた今回の出店についてこう語る。
「弊社内の実験では、店舗は盛況だったものの、全員がIT企業の社員ということもあって取れるデータが均質的になっていました。路面店への出店によって、来店客の多様性を新たに実感できたと思います」(西郷氏)
今回実施した商業施設内への出店では、いかにしてウォークスルー店舗の形態を支持してもらえるようにするかが今後のポイントとなるそうだ。西郷氏は、「データを蓄積していきたい」という先の山内氏の言葉に同意を示し、「まだまだデータが足りない」と現状を語る。また、今後は幅広く認知度を高めていくことにチャレンジしたいそうだ。
「ノンITの部分ではありますが、店舗の使い方などは今以上に地道な布教活動が必要ですね。現在もサイネージやチラシで説明をしていますが、コツコツと時間をかけながら浸透させていく必要があります。CeeU Yokohamaに人が集まるタイミングでキャンペーンを打つことも検討しています」(西郷氏)
“レジ会計なし”を実現した新感覚の購買体験であるが故、今後の認知活動の重要性に山内氏も同意を示し、「横浜での取り組みがウォークスルー店舗の展開を左右する試金石となる」と語る。
「多くのお客さまに使っていただくことで、今後この取り組みに再現性があるかどうかを正確に判断できます」(山内氏)
未来を見据え、ウォークスルーを当たり前の存在に
山内氏、西郷氏は「ウォークスルー店舗が当たり前になってほしい」と声をそろえる。両社とも、CATCH&GOの展開を短期的なものではなく、将来を見据えた取り組みとして位置付けているそうだ。
「電車に乗る時に、券売機に並んで切符を買っている方は今や少数だと思います。CATCH&GOも同じように、老若男女問わず体感してほしいですね。同業他社の皆さんにも、こういったスーパーマーケットがチャレンジしていることを、ぜひとも参考にしていただきたいです」(山内氏)
「ここ10年ほどでセルフレジもかなり定着してきました。ウォークスルー店舗も、今後10年の未来を見据えて当たり前の存在に育っていってほしいと思います。Catch&Goはどこでも導入できるサービスなので、日本の小売業全体で新しい未来を作りたい方々とご一緒していきたいです」(西郷氏)