不要になった衣類から野菜を育てる--。そう聞いて皆さんはどんな感想を抱くだろうか。衣類の大量生産・廃棄というグローバル規模の社会課題に立ち向かう企業は数あれど、「衣から食へ」を提唱する唯一無二の存在といえばクレサヴァではないだろうか。

同社が展開する「CIRCULAR FARM」は、不要になった衣類を回収し、破砕・粉砕・発酵・ペレット化する独自製法でできた肥料で野菜を育てるというもの。ペレットは肥料に必要な成分を含むことから、畑には微生物が増え、農作物の生育や土壌状態の向上に繋がる。

「衣類を捨てるのではなく、土に還す」というテクノロジーを確立させ、「繊維を燃やさず、炭化させたものを肥料にする」独自技術で特許を取得している。

さらに、京都府南丹市美山町にR&D(研究開発)施設として「CIRCULAR FARM」を開設。地域の農業生産者と連携しながら先の肥料で野菜を育て、高齢化や肥料の高騰、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に起因する価格競争など、課題山積と言っても過言ではない国内農業の活性化にも挑んでいる。そんな同社を率いるのはクレサヴァ 代表取締役社長 園部皓志さん。

従来の3R(Reduce、Reuse、Recycle)ではなく、「新たな3R(Reinvent、Reborn、Regenerative、再発明、再生、再資源)のフレームワークを用いて、ファッションを取り巻く環境課題にアプローチしたい」との思いで、2017年に創業してから早6年。その過程における1つのターニングポイントは、2021年7月に初となる約6,000万円の資金調達に成功したことだったと園部さんは振り返る。

  • クレサヴァ 代表取締役社長 園部皓志さん

    クレサヴァ 代表取締役社長 園部皓志さん

「生産・販売・消費・廃棄が衣類流通の従来的な流れでした。一方、クレサヴァが構築したのは、消費された衣類を回収し、土の中で分解させることで作物の成長を促し、生産した野菜や果物を消費者に届けるサステナブルモデルです。そんな新しい取り組みの価値が市場に認められた、という印象的な出来事でした」(園部さん、以下同)

今回、園部さんにクレサヴァの事業内容やこれからについてお話を伺った。

「衣料」から「肥料」への循環型テクノロジー

  • 衣料から肥料が生成される過程

    衣料から肥料が生成される過程

クレサヴァは回収した衣類や生地から円柱型のペレット(肥料)を生成する独自技術を持つ。専門機関による検査結果では、同ペレットには肥料に必要な栄養素であるNPK(窒素やリン、カリウムなど)が含まれていることが分かっている。ペレットを作り出すまでのステップは5つある。

1つ目の「破砕」では回収した衣類や生地を天然繊維と化学繊維に仕分けた後、独自開発した破砕機に入れて30mmほどに破砕する。驚くことに、ファスナー・ボタン類のような付属品の手作業での分別も不要で、バッグやシューズなどの皮革製品も破砕できる。あらゆる衣類や生地、付属品が破砕できるというのだ。

2つ目の「粉砕」では破砕した素材を粉砕機で、6~9mm程度の糸状の繊維になるまで、より細かく粉砕していく。このように微細な状態にすることで、3つ目の「炭化」と4つ目の「発酵」が促進されるという

次に、破砕・粉砕した衣類を「炭化」することにより、ポリエステルなどに含まれる有害物質やマイクロファイバーなどの残留物を取り除き、この過程で安全性を示すエビデンスを取得している。

その後、炭化した繊維を米ぬかやもみ殻などの発酵有機物(廃棄される予定だったものを回収してアップサイクル)と混ぜ合わせ、約4週間かけて発酵を促し微生物によって分解(自然発酵)されるのを待つ。米ぬかや水の調合は、状態を観察しながら人力で行う。

発酵した繊維をペレット機に移管し、1~2cm程度の円柱型ペレットに加工していく。円柱型にしたのは、農家への聞き取りをした結果、農業機械で広範囲に撒きやすい最適な形状であると分かったためだ。

  • 美山にあるCIRCULAR FARM

    美山にあるCIRCULAR FARM

「洋服は土に還り、資源になる」と伝える場作り

toB向けには認知が進んでいるが、toC向けに衣から食への循環型テクノロジーを応用したCIRCULAR FARMや、そのビジネスモデルを広く知ってもらうための活動も積極的に行っている。

  • 東急プラザ銀座で期間限定オープンした「CIRCULAR FARM MUSEUM」

    東急プラザ銀座で期間限定オープンした「CIRCULAR FARM MUSEUM」

たとえば、2023年4~7月にかけて東急プラザ銀座にパビリオン型の期間限定大型サステナブルショップ「CIRCULAR FARM MUSEUM」を期間限定でオープンしたのもその一環だ。約1300平方メートルの広いスペースに、「学び・体験・実践」をコンセプトにした5つのブースとポップアップスペースを展開。

京都・美山のCIRCULAR FARMで育てた野菜やスイーツを揃えたマルシェに、京都の地産地消食材を使ったメニューを提供するレストランバー「YUBA」も併設している。ショップスペースでは、和紙をはじめとする天然素材を用いたライフスタイルブランド「aloof home(アルーフホーム)」によるアパレル製品やライフスタイルグッズの他に、衣類の回収カウンターも設置。aloof homeは別会社であるが、園部さんが立ち上げたブランドである。クレサヴァが創造した循環モデルをワンフロアで体感できるイベントとなった。

さらに、同年6月には千葉・木更津にオープンした「KISARAZU CONCEPT STORE」内のFACTORY LABにCIRCULAR FARMの取り組みを発信する体験型エンターテインメントスペース「CIRCULAR FARM Lab.」を展開。同スペースでも、衣類から肥料を作り、野菜を育む過程を学べる体験ブース、CIRCULAR FARMから届く野菜のマルシェなどを開催している。

このほかにも、「天然繊維と暮らそう」をコンセプトに、日本の優れた技術で丁寧に作られた天然素材の洋服やライフスタイルアイテム、「野菜と遊ぼう」をコンセプトに野菜を育てる栽培キットなどもセレクト。また、屋外には農園を設け、美山のCIRCULAR FARMと同様に季節ごとの野菜を育てる。

  • CIRCULAR FARMの循環イメージ

    CIRCULAR FARMの循環イメージ

アパレル業界の廃棄問題解決を目指し、ファッションをすこやかに楽しむために、不要になった衣類は捨てるのではなく土に還すことで、可能性を秘めた資源にする--。そんなメッセージを視覚的に伝える場となっている。

このCIRCULAR FARM Lab.では、新たな展開が予定されている。Lab.から派生する形で、Fashion Lab.にSports & Wellness Lab.、Food Lab.、Beauty Lab.、School Lab.などを作り、自社だけでなく持続可能な未来を目指すパートナー企業やブランドとのコラボレーションを行う、プロジェクトベースの活動がスタートする。

製品の開発や小学生とコラボする衣類廃棄問題の解決に向けての取り組みなども実施。東急プラザ銀座4Fのアルーフホームの店舗では、衣類が肥料になるまでの動画やサンプルなどの展示スペースが設けられている。このCIRCULAR FARMを通じて、環境負荷を軽減しながら、経済・ビジネスを持続可能なものとすることを目指していく。

衣類=資源回収を当たり前にする「インフラ」に

今クレサヴァが目指すのは、CIRCULAR FARMが「資源の回収を行うインフラ」として、当たり前に存在する世界だ。人々の持つ衣類が不要になったとき、資源として素早く回収し、肥料を作って農業へと回していく。例えて言うならば、多くの人々にとってのインフラとなったAmazonが、デジタルの力で物流改革を成し遂げ、消費の風景を一変させたように。

そんな仕組みを構築すると、不要になったすべての衣類はゴミではなく、資源として循環していくことになり、多種多様な業界・業種だけでなく、国を超えたつながりが生まれる可能性もある。海外展開についても園部さんはビジョンを持っている。

10代後半から20代の学生時代、海外で暮らしていた園部さん。2010年代に渡英し、ファッションの本質を理解する目的でロンドンの大学に進学した。ファッションデザインを学び、帰国後は海外ブランドを取り扱う企業に就職。その後は日本を代表するアパレル企業で実績を積みたいと、3年間ファーストリテイリング(ユニクロ)でデザイナーを務めている。

「自身の海外体験や当時現地で触れた文化や学んだこと、それを元に生まれた考えや想いを英語で伝えられることは、私独自の強みだと思っています。最近では海外の食・テクノロジー関連のイベントやピッチコンテストなどにも積極的に参加し、国・地域を超えた取り組みを行うことを目指しています」

事業展開の発展のため、衣類回収のキャパシティ拡大に向けての動きも着々と進めている。現在、年間1,200トンの衣類回収が可能だが、来夏には千葉・成田に工場を構え、5,000トンのキャパシティまで処理能力を増強する見通しだ。さらに、同年に控える大規模な資金調達が成功すれば、2025年春までに目指す5万トンの製造体制が実現する。

環境省は、服がごみとして出された場合、再資源化される割合は5%程で、ほとんどはそのまま焼却・埋め立て処分され、その量は年間で約45万トンにもなると伝えている。クレサヴァでは、これらのうち約10%の衣類を肥料化することを目標として掲げている。循環の輪が広がれば、この数字がさらに上がっていく未来が見えてくる。

クレサヴァが取り組む「再資源型農業」が実現し、スタンダードなものになれば、あらゆる廃棄衣類は不用品ではなく、持続可能な農業に寄与する資源となる。クレサヴァの挑戦から目が離せない。