11月28日~29日で開催されたセールスフォースのプライベートイベント「Salesforce World Tour Tokyo」では、セブン&アイ・ホールディングス グループDX本部 デジタルイノベーション部 シニアオフィサーの伏見一茂氏が、「生成AIを活用した小売業の変革詳細を見る」と題して、同グループが推進するデータ活用について説明した。

セブン&アイホールディングスは、国内に約2万2800店舗、世界では8万5000店舗を展開。連結従業員数は約16万7000人で、2023年2月期のグループ売り上げは約17兆8400億円となっている。1日あたりの総来客数は約6000万人(世界)だ。

その中で伏見氏は、2011年からセブン&アイ・ホールディングス システム部 シニアオフィサーを務め、2016年からグループのID統合および統合ロイヤルティプログラムの立ち上げを実施。現在はグループ横断の「7iD」の企画・立案・実施、3000万人以上の会員(2023年7月末時点)のCRM戦略の推進、7iDデータの利活用を行って、グループ横断のロイヤルティプログラム企画・運営、7iD関連コールセンターなどを担当している。

  • セブン&アイ・ホールディングス グループDX本部 デジタルイノベーション部 シニアオフィサーの伏見一茂氏

    セブン&アイ・ホールディングス グループDX本部 デジタルイノベーション部 シニアオフィサーの伏見一茂氏

3000万人の「7iD」会員データを活用

同グループでは、データ活用において、グループ共通のIDである7iDを通してデータを収集している。各事業者のアプリケーションや配達サービス、通販サービス、直近では金融との連携も強めており、現在約3000万人の7iD会員(2023年7月末時点)がいる。

7iDについて伏見氏は、「これはすなわち、顧客のデータを一元管理して、大量かつ多様性あるデータが使える状態になっているということです」と述べた。

データは各事業会社のID-POSのほか、ECの注文情報や行動履歴、グループ金融機関の口座取引履歴、クレジットカード利用履歴などから集まってくるが、フォーマットがバラバラなので、まず、これを共通フォーマットに統一する。この時に安全措置を講じたり、分析やツールで使わない個人情報については削除を行う。

その後、そのデータをAIに投入したり、セールスフォースのサービスを活用してデータを分析・加工しているという。

伏見氏は、AIの時代におけるデータ収集においては、「頻度」「鮮度」「精度」の3つが重要だと語った。

「頻度については、AIを利用するために大量のデータが必要であり、これを学習させることが必要なので、ファーストパーティのデータを大量に発生させておく仕掛けが非常に重要だと思っています」(伏見氏)

「鮮度」については、顧客の状態に合わせてアクションを取るため、最新のデータを常に持っておくことが重要で、精度については、AIに正しい答えを導き出させるためには正しい正確なデータ、詳細なデータを保持することが必要だという。

「弊社のグループでいくと、誰が、どこで、いつ、何を、いくらで、何時に買ったのかというころまで分かりますので、こういうデータを自社の中で常に発生させ、それをきちんと収集し、加工して使える状態にしておくことが重要だと思っています」(伏見氏)

CRM領域におけるAIの活用

セブン&アイ・ホールディングスグループでは、AIをさまざまな用途で活用しているが、CRM(顧客関係管理)の領域では、7iDのデータを活用して予測モデルを内製化する部分で利用しているという。例えば、クーポンの予測モデルでは、あるクーポンを出すと、何%ぐらいの顧客が使ってくれるのかを事前に予測して、販促に役立てている。

「メーカーから協賛をもらったり、自社でクーポンの費用が発生するときに、あらかじめAIを使って予測させておくことで、無駄な経費を発生させないようにしています」(伏見氏)

また「顧客嗜好スコアリング」の算出にも、AIを活用している。顧客嗜好スコアリングは、顧客の価値観や思考などをスコア化して、これに基づいて販促や品揃えの拡充を実施している。このスコアを算出する際には、全体の価値観で約20種類(安全・安心嗜好、美容に興味、季節イベント好きなど)、食の好みで約50種類(冷凍食品好き、麺類好き、パン好き、サラダ好きなど)、食の志向で約20種類(簡便化志向、手作り志向など)のスコアを持っているという。

そのほか、レコメンドアルゴリズムにもAIを活用しており、Webサイトやアプリで、顧客にレコメンドする商品の算出に使っている。

「こういうお客さまの好みをより細かく私たちが勉強させていただくことで、お客さまのニーズに合った販促をやったり、そのほかの活用をしています。例えばクーポンでも、嗜好スコアを使って投げた方が利用率は約8倍ぐらい上がることも、実際の結果として出ています」(伏見氏)

加えて、顧客嗜好スコアは販促だけではなく、顧客の嗜好の変化を捉えることにも活用されている。今年と去年の変化など、嗜好の変化を捉えられれば、商品開発であったり、お店ごとの品揃えにも使えるという。

今後は、アプリやWebサイトにどういうメニューで広告が出せるのかについてを広告主に知らせることで、ターゲティングに利用するなど、リテールメディアでの活用を嗜好スコアを使って実施していきたい考えだ。

グループでの生成AIの活用

セブン&アイ・ホールディングスグループでは、生成AIファーストを掲げており、社員が業務を行う際には、まず生成AIを使ったらどうなるかを考えてもらうようにしているという。

「生成AIを使うと社内の業務効率が上がったり、顧客の体験や店舗での体験が劇的に変わります。日本では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が起こりにくく、みなさん苦しんでいると思いますが、(生成AIを使うことで)このトランスフォーメーションが劇的に起こるのではないかなと思っています。今後、生成AIを軸としたDXを加速させたいと考えています」(伏見氏)

同グループでは生成AIを「マーケティング」、「業務効率化」、「店舗支援・顧客体験向上」、「データ分析」の4つの領域で活用すべく、検討・PoC(概念実験)を実施している。

マーケティングでは、クリエイティブの自動生成やターゲティングの部分、業務効率化では、社内書類の自動作成、翻訳、要点のまとめ、問い合わせへの回答などで活用していく。

「カスタマーセンターの効率化ができるところは、すごくメリットを感じますので、問い合わせの回答作成には積極的に使っていきたいと思っています」(伏見氏)

店舗支援・顧客体験向上では、店舗マニュアルを生成AIに事前に読ませておくことによって、店舗で対応しきれないことを、会話型の生成AIによって回答してもらったり、対話型の生成AIを使って、顧客の困りごとも解決していく。

そしてデータ分析では、データアナリストなどの専門家の代わりに分析してもらうことを考えている。

「『7iD』のデータは、専門家がいないお店にこそ使ってもらいたいと思っています。何で今日は売上が悪いのか、どういう要因で悪いのか、どうしたらいいのかなど、生成AIはすべて答えてくれるので、データを現場に活かすことが期待できると考えています」(伏見氏)

一方で、データ活用で注意する点として伏見氏は、データを収集する際には何のために使うのかという目的からさかのぼって必要以上のものは取らない、加工については個人情報も含めて、安全に利用できる加工粒度を考えないといけないという点を指摘した。

さらに、加工したデータが信頼に足るものなのか、正確なのか、プライバシーに配慮した利用というところも、使う側として気をつけなければならないという。

「予測モデルで生成AIを使うと、こんなところまで分かってしまうのかというところまで分かります。あえて、そこは使わないというところをきちんとやり、お客さまのことを考えて、利用されたくない人については、お客さまの選択で使わなくするという制度も必要ではないか思っています」(伏見氏)

そして同氏は最後に、生成AIを自動車の高出力エンジンに例え、高出力のエンジンを回すためには高品質なガソリンが必要だとし、次のように語った。

「AIの時代は大量のデータが必要で、データを発生させる仕掛けが必要です。われわれでいうとポイントプログラムであったり、ロイヤリティプログラムですが、常に湧き出る原油を発掘するような仕組みが必要になると考えています」(伏見氏)