セールスフォース・ジャパンは、11月28日と29日の2日間、「Salesforce World Tour Tokyo」を都内のホテルで開催。1万1000人が参加した。イベントはオンライン配信も行われ、8000人が視聴したという。

2024年度第2半期は31.6%の成長

28日には、6年ぶりに来日した米Salesforceの創業者で会長 兼 CEOのマーク・ベニオフ氏が基調講演を行った。同氏がまず触れたのは、グローバルにおける同社の業績についてだ。

  • 米Salesforce創業者で会長 兼 CEOのマーク・ベニオフ氏

    米Salesforce 創業者で会長 兼 CEOのマーク・ベニオフ氏

同社は、創立して25年を迎えるが、売り上げは順調に伸びているという。2024年度第2四半期の売上は86億ドル(約1兆2,700億円)で、前年同期比31.6%の成長となっている。2024年度は348億ドル(約5兆1500億円)の売り上げを見込んでいるという。日本法人も、国内第2位のソフトウェア企業になり、売り上げも2000億円を超えたという。

  • Salesforceの25年間の売り上げの推移と今年度の業績

    Salesforceの25年間の売り上げの推移と今年度の業績(出典:Salesforce)

  • ベニオフ氏は肩を組み小出氏を賞賛した

    ベニオフ氏は肩を組み小出氏を賞賛した

「本当にこの素晴らしい成長だ。また、私たちはイノベーションや社会貢献、倫理にもフォーカスしている。事業を成功させながら、社会に還元していく。本当に意味のある形で還元ができていることは素晴らしいと思う。私は小出さんに感謝している。小出さんの素晴らしいビジョンがなければ、セールスフォースは日本第2位のソフトウェア企業になることはできなかった」と、日本法人の代表取締役会長 兼 社長である小出伸一氏を称えた。

これを受け、小出氏は「このように成長できたのも、ここにお集まりのお客さま、パートナーさまの支援の賜物です。これからも引き続きご支援よろしくお願いします」と挨拶した。

「Einstein 1」の狙いはカスタム化

べニオフ氏は信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等、サステナビリティという同社のコアバリューに触れ、「これらはただ言うだけでなく、実際のアクションに落とし込むことが重要だと考えている。変化を求めたさらなる活動が重要だ。新しい形で顧客とつながるというところが重要になる」と述べた。

そして、これらを実現するための重要なテクノロジーがAIだとした。

同氏は、現在われわれはAIの第2波「生成AI」の段階で、今後、第3波の「自律型エージェント」、第4波の「汎用人工知能」に向かっていくという。

  • エンタープライズAI革命の波

    エンタープライズAI革命の波(出典:Salesforce)

「AIによって生産性をどんどん上げることができる。そして、これまでできなかった体験を強化していくことができる。人間の体験、知識、能力をベースにして、これまでにない高みを目指していける。これこそがAIがもたらす新たなチャンスであると考えている。それが今、私たちの目の前に開かれようとしている」(ベニオフ氏)

  • AIがもたらす新たな変革機会

    AIがもたらす新たな変革機会(出典:Salesforce)

一方で同氏は、AIにおける課題も指摘した。

「このテクノロジーというのは、いつも100%正確であるわけではない。ハルシネーション(幻覚。AIが幻覚を見ているように間違った回答を返すこと)の問題もある。また、有害性の問題もある。多くのお客様が、AIの支援に対して、この課題を感じている。重要なのは信頼で、セールスフォースは、より多くの信頼をみなさんに提供していくことを約束する。AIのギャップを埋めるために、私たちはさらに努力していく」(ベニオフ氏)

同氏は、現在の企業の課題はバラバラなデータ、連携のないAPI、分断されたアプリなどの多くのギャップが存在していることで、これをAIを活用することによって解決していきたいと語り、そのためのプラットフォームが同社が今年の9月に発表した「Einstein 1」だと強調した。

そして、同氏はEinstein 1の狙いについて、「みんな何を言っているのかというと、パッケージ化されたアプリケーションがほしい、AIがほしい、インテリジェンスがほしい、CRMも使いたい。でも、自分たちのためにカスタム化して、自分たちのビジョン、プロセスに合ったものを使いたい、カスタムアプリケーションがほしいという。そのため、私たちはプラットフォームを提供して、みなさんがAIアプリケーションを構築できるようにしなければならない」と述べ、講演を締めくくった。

「Einstein 1」のトップバリューは信頼

続いて登壇したのは、共同創設者 兼 グローバルCTO パーカー・ハリス氏だ。

  • 米Salesforce 共同創設者 兼 グローバルCTO パーカー・ハリス

    米Salesforce 共同創設者 兼 グローバルCTO パーカー・ハリス氏

同氏はまず、Einstein 1に触れ、Einstein 1の特徴は、さまざまなものが統合化されている点だと語った。

「Einstein 1は、AIファースト、統合化、自動化され、ローコード、ノーコード(で利用でき)、そして、オープンだ。特に私が楽しみにしているのは、全部一つの共通のプラットフォームに統合していることだ。マーケティング・オートメーションでExactTargetを何年か前に買収し、eコマースの会社、Demandwareも買収した。そういったアセットを活用して、再構築した。なぜかというと、みなさんが共通のデータプラットフォームがほしい、そしてシームレスなオペレーションを望んでいるということを知ったからだ。今、新たなプラットフォームですべて統合された。そして、このプラットフォームはAIによって支えられている。それが『Einstein 1 Platform』だ」(ハリス氏)

  • Einstein 1 Platform

    Einstein 1 Platform(出典:Salesforce)

そして、Einsteinのトップバリューは信頼性で、そのための仕組みが「Einstein Trust Layer」だと説明した。

Einstein Trust Layerでは、AIに指示を出すプロンプトを入力すると、LLM(大規模言語モデル)に渡され回答が戻るが、このデータをマスキングするという。また、データを一切保存することなく、結果に対しても有害性のチェックを行い、監視履歴も取得する。そして、Einstein Trust Layerは、Einstein 1のプラットフォームに統合された形で機能するという。

  • Einstein 1 Platformの仕組み

    Einstein 1 Platformの仕組み(出典:Salesforce)

なお、Einstein Trust Layerは12月15日に提供を開始される予定だ。

一方同氏は、データ革命を実現する上では、さまざまなところにデータが点在しているという課題もあり、これを解決するために、「Einstein 1 Data Cloud」を発表したと述べた。

「Einstein 1 Data Cloudは、ハイパースケールデータエンジンで、こうしたサイロを無くす。そして、データを集めて協調する。例えば、お客さまのデータがさまざまなところに点在していても、それを1つの統合されたデータベースにも取り入れられる」(ハリス氏)

  • 「Einstein 1 Data Cloud」の仕組み

    「Einstein 1 Data Cloud」の仕組み(出典:Salesforce)

なお、Data Cloudは、Enterprise Edition 以上の顧客を対象に、最大1万のプロファイルが統合され、2つのTableau Creatorライセンスともに、12月18日から無償提供される予定だ。

  • Free Data Cloud and Tableauを12月18日に提供

    Free Data Cloud and Tableauを12月18日に提供(出典:Salesforce)

そして最後にハリス氏は、Sales EmailやWork Summaries、Prompt Builderなどの、今後提供される機能のリリース予定を紹介し、講演を終えた。

なお、今後の新機能の国内での提供予定は、以下の通りとなっている(カッコ内は、提供開始日)。

  • Work Summaries
    カスタマーサービスにおける、オペレーターと顧客の会話内容の要約をAIが生成(2023年12月15日)

  • Service Replies
    顧客からの問い合わせに関する返信内容の推奨案をデータやナレッジベースに基づきAIが自動生成(2023年12月15日)

  • パーソナライズされたメールをAIが生成
    Sales EmailCRM内の情報を活用し目的に即してパーソナライズされたメールをAIがワンクリックで自動的に生成(2024年2月:)

  • Call Summaries
    音声通話、ビデオ会議通話からAIが要約を生成。顧客センチメント、要点、営業が取るべき次のステップを特定し、メールやSlackから情報共有を可能に(2024年2月)

  • Prompt Builder
    顧客データを活用して自社のブランドやコミュニケーションスタイルに合った独自のAIプロンプトを構築、テスト、組織への展開が可能(2024年2月)

  • Hyperforce上でのData Cloud国内提供
    Salesforceのパブリッククラウド向けインフラアーキテクチャを信頼性高く再構築した国内のHyperforce上で、Data Cloudが利用可能に(2023年12月11日)