東北大学の青葉山新キャンパスにて2024年4月から稼働予定の次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」にて12月5日、同施設の企業と研究者の共同研究体制である“コアリション・コンセプト(Coalition Concept)”に賛同した企業向け見学会を開催した。

この見学会は、ナノテラス(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)の地域パートナーの1者である光科学イノベーションセンター(PhoSIC)が主催したもので、ナノテラスのビームライン(企業との共同研究向け)の7本のビームラインの現在の整備状況などを見学し、2024年4月以降に始める各共同研究を推進することを目指したものとなる。

物質の詳細な分析を可能とする研究体制を構築

現在、ナノテラスでは合計10本のビームラインが整備中で、その内の3本は国側の量子科学技術研究開発機構(QST)が利用し、残りの7本のビームラインを東北大などの大学と企業が共同研究といった形で活用が進められる予定。ナノテラスに設けられたこれらのビームラインは、ほぼ光速で直進する電子が、強い磁場によって曲げられた際に放射される、指向性の高い光である放射光を用いて、対象物の組織をナノレベルで観察することによって、その物質・組織の微細な構造や反応などの詳細を調べ、その物質・組織の最適化につなげるツールとなることが期待されている。例えば、自動車などのタイヤのゴムの動的な微細な組織観察によって、高性能なタイヤ開発がさらに進むと期待されている。

民間向けの7本のビームラインでは、例えば「オペランド分光解析」や「多次元コヒーレントイメージング」などのそれぞれの微細な観察・解析向けに最適化がなされた整備が進められている。

また、このビームラインを産学連携で利用しようというコアリションとは、ある課題解決を図る企業が、その課題解決に適した研究開発手法に適した大学の研究者などと協力して多角的に研究開発を進める体制を意味し、目指す製品開発に適した研究開発手法や得られたデータの分析などを共同研究相手の大学などの教員グループが支援する。実際には、さらに分析解析に適した分析解析専門企業も加わる体制が構築される計画だ。

  • コアリション・コンセプトに基づく産業界と学術会の連合概念図

    コアリション・コンセプトに基づく産業界と学術会の連合概念図 (出所:光科学イノベーションセンター)

なお、コアリションメンバー企業の加入金は5000万円で、年間当たり500万円で10年間にわたって高輝度の放射光による分析が可能となる権利を得ることができる計画だ。

筆者注:次世代放射光施設「ナノテラス」は、2018年に文部科学省が「官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の推進」を発表し、量子科学技術研究開発機構(QST)とともに次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)の整備と運用の主体となる「地域パートナー」の募集を行っている。この地域パートナーとして、光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関に、宮城県、仙台市、東北大学、東北経済連合会の4者が参加する形で、ナノテラスの設備施工が進られてきており、2024年4月から本格稼働する予定になっている。