東京医科歯科大学(TMDU)は11月29日、妊娠期の女性が寒さや暑さにさらされると、早産のリスクが上昇することを明らかにしたと発表した。

同成果は、TMDU大学院 医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野の藤原武男教授、同・西村久明助教、同・寺田周平大学院生、医歯学総合研究科 生殖機能協関学分野の宮坂尚幸教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立産婦人科医会の刊行する妊娠に関する全般を扱う公式学術誌「BJOG:An International Journal of Obstetrics & Gynaecology」に掲載された。

医療が進歩したことで、、出産において母子どちらかあるいは両方が死亡するような危険性は、日本国内だけでなく世界的にも以前に比べれば減ってきているが、それでも依然として命がけの生命の営みであることは間違いない。中でも、5歳未満の乳幼児で最も多い死亡原因となっているのが早産(妊娠37週より早い出産)で、世界的に深刻な問題となっているという。

また、地球温暖化の影響で暑すぎたり寒すぎたりする日が増えることは、人々の健康に悪影響を及ぼすことが明らかにされており、それが早産に影響を及ぼすことも考えられるものの、どのように影響するかはよくわかっていなかったとする。日本では、地域による医療の格差の問題はあるものの、全国どこでもほぼ同じような周産期医療を受けることができる。しかし、国土が南北に長いことなどの関係で地域によって気温の変動がさまざまだ。そこで研究チームは今回、日本のこの特徴を活かし、妊娠中の母親が寒さや暑さにさらされると、早産が増えるのかどうかを明らかにするための調査を行ったという。

今回の研究では、2011年から2020年までの10年間にわたり、沖縄県を除いた国内46都道府県を対象に、一日の平均気温と早産の発生件数の関連が調べられた。なお同調査には、日本産科婦人科学会の周産期登録データベースと気象庁の気象データが活用され、気温の影響が現れるまでの時間差(ラグ効果)が考慮された。その結果、妊娠中の母親が寒さや暑さにさらされると、早産になるリスクが高くなることが以下の通りに判明したとのこと。なお気温は16℃を基準としたとする。

  • 一日の平均気温が0.8℃(寒さの上位1%)の場合
    早産のリスクが15%増加(95%信頼区間:5%~29%)

  • 一日の平均気温が30.2℃(暑さの上位1%)の場合
    早産のリスクが8%増加(95%信頼区間:0%~17%)

研究チームによると、今回調査した中に含まれる早産の乳児約21万人のうち約5000人は、妊娠中に母親が16℃未満の寒さにさらされたことにより早く生まれたと考えられ、それは早産全体の2.3%に及ぶという(95%信頼区間:0.6%~4.0%)。また、寒さや暑さによる早産への影響は、35歳未満の若い母親や妊娠34週以降の後期早産において、より強く見られたとしている。

  • 28日間のラグ効果を考慮した日平均気温と早産リスクの関連

    28日間のラグ効果を考慮した日平均気温と早産リスクの関連。実線が一日の平均気温における早産リスクを表し、灰色の領域は95%信頼区間を表す。46都道府県の日平均気温の中央値を平均した16.0℃が基準とされている(出所:TMDUプレスリリースPDF)

今回の研究により、妊娠中の母親が寒すぎたり暑すぎたりする環境にさらされると、早産になりやすいことが明らかにされた。これは、早産を予防する方法を考える時には、気温にも留意することが重要であることを示唆しているとする。そして将来的には、たとえば熱中症警戒アラートのように、早産の予防対策として妊娠期の女性に対して気温に関する情報を提供し、暑すぎたり寒すぎたりする日は外出を控えるなどの予防行動を促すことが有効かもしれないという。

また、地球温暖化の影響を身近に感じるようになってきた近年、極端な暑さや寒さが健康に与える影響を最小限にするため、医療機関には一層の取り組みが求められるとし、今回の成果を活用して妊娠中の母親や胎児・乳児の健康を守り、社会全体の健康促進につながることが期待されるとしている。