富山大学は11月14日、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する7万3209組の母児を対象に、母親の妊娠中のビタミンD摂取量と産まれた子どもの3歳におけるアレルギー疾患との関係を調査し、摂取量に応じて5グループに分類して解析した結果、妊娠中のビタミンD摂取量が少ないグループと比較して、摂取量が多くなるほど子どもの3歳時点のアレルギー性鼻炎の頻度が低かったことがわかったことを発表。また花粉症では、摂取量が最も少ないグループと比較して、2~4番目に摂取量が多いグループでリスクが低下していることが明らかになったことなども併せて発表した。

  • 今回の研究成果のイメージ

    今回の研究成果のイメージ。母親の妊娠中のビタミンD摂取量が多くなるほど、生まれた子どもの3歳時点のアレルギー性鼻炎の頻度が低かったことなどがわかった(出所:富山大プレスリリースPDF)

同成果は、富山大 学術研究部 医学系 小児科学講座の清水宗之氏(現・新潟県 厚生農業協同組合連合会 糸魚川総合病院 小児科医長)らの研究チームによるもの。詳細は、アレルギーと免疫に関する全般を扱う学術誌「International Archives of Allergy and Immunology」に掲載された。

ビタミンDは免疫系において重要な働きをすることがわかっており、小児期のビタミンD不足はアレルギー疾患の発症との関連が指摘されている。ただし、妊娠中の母親のビタミンDの摂取量が、子どものアレルギー疾患に関与するのかどうかについては、意見が分かれていたという。

研究チームが以前にエコチル調査を用いて実施したのが、妊娠中の母親のビタミンDの摂取量と、産まれた子どもの1歳時点のアレルギー疾患の関係の調査だ。その際は明確な関係は見出されず、また1歳時には評価できない疾患があることや、低年齢ではアレルギー疾患の正確な診断が難しいことなどもあり、正確な結果が得られなかった可能性が残されたとする。そのため今回は、7万3209組の母児を対象に、妊娠中のビタミンD摂取量と、子どもの3歳時点のアレルギー疾患との関係についての調査を行ったとする。

ちなみにエコチル調査とは、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を解明することを目的に、2010年度から環境省が開始した、全国で約10万組の親子を対象とする大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。

まず妊娠中の母親のビタミンDの摂取量については、アンケート形式の「食物摂取頻度調査票」を用いて収集され、摂取量で母親を5グループに分類したのち、グループ間の違いが検討された。一方、子どものアレルギー疾患については、3歳時点のアレルギー症状(ぜん鳴、アレルギー性鼻炎、アレルギー性鼻結膜炎、アトピー性皮膚炎)の有無、3歳までにアレルギー疾患(気管支ぜん息、花粉症、アトピー性皮膚炎)と診断されたことがあるかが、それぞれ検討された。またアレルギー症状については、国際的にも使われる「ISAAC調査票」に基づいた評価を実施。これらの情報をもとに、母親のアレルギー疾患の既往や出生週数・体重など、アレルギー疾患に影響を及ぼすほかのさまざまな条件を一定にするための解析を施したとする。

そして調査の結果、妊娠中のビタミンD摂取量が少ないグループに対し、摂取量が多くなるほど、子どもが3歳時点でアレルギー性鼻炎の症状がある割合が低いことがわかったとのこと。またビタミンD摂取量が最も少ないグループと比較して、2~4番目に多いグループでは、花粉症と診断されている子どもの割合が低いことも判明したとする。一方でほかの項目では、ビタミンDの摂取量による明確な差は見られなかったとしている。

  • ビタミンD摂取量とアレルギー性疾患との関係

    ビタミンD摂取量とアレルギー性疾患との関係(出所:富山大プレスリリースPDF)

そして、妊娠中のビタミンDの摂取量の平均値は1日あたり4.7μgであり、調査時点の日本人の食事摂取基準(2015年版)で示された妊婦の目安量である7μg(2020年版の目安量は8.5μg)よりも大幅に少なかったという。研究チームによると、幼児期のアレルギー性鼻炎の罹患は、後の気管支ぜん息発症のリスクになる可能性も指摘されており、妊娠中のビタミンD摂取量を増やすことで、そうしたアレルギー疾患リスクを減らせる可能性があるとした。

一方で、今回の研究の解釈には複数の注意点もあるという。ビタミンDの摂取量やアレルギー疾患の診断などはアンケートを用いているため、記憶違いや回答ミスなどが含まれる可能性があるほか、ビタミンDは日光に当たることで体内に生成されるが、その影響を完全には排除できていないとのこと。また、子どもの出生後のビタミンDの摂取量についても考慮されていないうえ、大事なこととして、今回の研究結果は、大多数の母児を比較した結果として見えた傾向であって、子どもがアレルギー疾患になった理由が「妊娠中のビタミンD摂取量が少なかったから」ということを示すものではないとしている。

今後研究チームは、子どもの食事内容などさらに情報を収集すると同時に、より高年齢でもアレルギー性鼻炎の予防が示唆される関連が認められるのか、さらに調べていく必要があるとした。